2004年12月、スマトラ沖地震で発生した巨大津波。22万人以上が死亡・行方不明となる大惨事だったが、タイ南部のリゾート地プーケットでは、イギリスの少女が数百人の命を救ったケースがあった。学校で地震と津波について学んだばかりだった彼女は、海が泡立った後、突然、潮が引くのを見て「ママ、絶対津波がくるよ」と訴えた。「angel of the beach(浜辺の天使)」。10歳の少女はそう呼ばれた。
世界でもトップレベルの防災体制と技術を持っている日本だが、実際の災害では過去の教訓が生かされないケースが多い。「防潮堤などのハード面だけでは限界がある。だから教育が大切なんです」。県内で防災教育に取り組む山形大の村山良之教授は語る。
村山教授は2008年、県内の小中高校を対象に防災教育に関するアンケートを行った。その結果、「防災教育を実施していない」とした学校は小学校では8%にとどまるのに対して、中学校は31%、高校は57%。その理由について、6割を超える学校が「時間が取れない」とした。
「1964年の新潟地震、67年の羽越水害以降、本県では大きな災害がない。もちろん、それはとてもいいことだが、近年災害経験がないため、防災への意識は残念ながら薄れてきている」
昨年6月、村山教授は山形四中の1年生を対象に家庭科の特別授業で防災教育を実践した。山形県でも大地震が発生する可能性があることや学区内の想定震度などを紹介、被害を防ぐために何が必要かを考えてもらった。半年後に行った調査では、ベッドや家具をチェックしたケースが半数を超え、一定の効果があったことがうかがえた。今年2月には山形三中でも実施。来月には大江中で教壇に立つ計画がある。
死者・行方不明者が2万3千人を超す東日本大震災。とりわけ大津波による被害は甚大で、これまで津波防災に精力的に打ち込んできた研究者の中には無力感にとらわれた人もいるという。「しかし、こうした取り組みのおかげで命を救われた人々もたくさんいる。検証は必要だが、地道な教育が成功した部分をきちんと評価しないといけない」
(1)この地域は災害が少ないと思っていた(2)行政がいつか対策をやってくれると思っていた(3)備えは将来すればよいと思っていた(4)自分は大丈夫と思っていた-。東北大の今村文彦教授は共著「防災教育の展開」で四つの「思っていた」を例に挙げ、学ぶことで偏見を取り去ることができると指摘する。
「本当は、災害経験に乏しい本県だからこそ防災教育が重要なんです」。村山教授は強調する。「家具が倒れないようにする。仮に倒れても被害を受けないよう寝る場所に気を付ける。小さいことでもいい。まずは、できることから始めましょう」
東日本大震災の被害調査を行う村山良之教授(左)。「災害経験に乏しい地域だからこそ防災教育が重要だ」と語る=仙台市泉区