東日本大震災からちょうど1カ月後の2011年4月11日、福島県浜通り地方をマグニチュード(M)7の地震が襲った。最大震度は6弱。死者・行方不明者1万8千人以上の大惨事となった「3・11」の陰に隠れ、一般にはあまり知られていないが、いわき市で土砂崩れが発生して家屋が倒壊、4人が犠牲になった。この地震を引き起こしたのが活断層だ。
珍しい正断層
発生は午後5時16分。翌朝から研究者らが震源周辺を丹念に踏査した結果、いわき市で2本の地表地震断層を発見した。「いずれも以前から存在が知られていた井戸沢、湯ノ岳という2本の活断層に沿って現れた」。調査に加わった山形大教授の八木浩司は話す。
新たに現れた断層は長さ約13~15キロ。断層のタイプは東北では珍しい正断層型だ。
断層運動には、水平方向から圧縮されて片側の地盤がもう一方の地盤にのし上がるタイプ(逆断層)と、引っ張られる力によって片側の地盤がずり落ちるタイプ(正断層)などがある。
東北地方は、太平洋プレートの沈み込みに伴い東から西に圧力を受けているため、逆断層が多いが、気象庁は「4・11」の地震を、正反対の力で発生する正断層と発表した。「東北で正断層が確認されたのは初めて」と八木。
なぜ正断層型の地震が起きたのか。原因は、人々を悲しみのどん底に突き落とした東日本大震災だ。
「3・11」は太平洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む際、蓄積したひずみが限界に達して発生した海溝型地震とされる。大震災によって、圧縮力が解放され、東北地方の地盤は海側に動いたことが衛星利用測位システム(GPS)の解析結果から分かっている。東から長年受け続けた圧力が一気に消えたため、重しの取れた大地が海側に解き放たれた格好。「その際、後方の地盤が、先行する地盤の動きについていけず、地殻の浅い部分がずれ落ちて起こったのが4月11日の地震」と、八木は解説する。
大震災から間もなく2年。現地はどう変わったのか。自分の目で確かめようと、八木の案内で東北自動車道を南下、いわき市の地表地震断層を訪ねた。
同市の塩ノ平にある細い林道脇に、地震の傷痕はいまもくっきり残っていた。落差は2メートルほどあるだろうか。ほぼ垂直にずれ落ちた地盤。斜面に、明るい黄土色がむき出しになっている。地震が起きなければ、地中に閉じ込められたまま二度と光を浴びることのなかった地層だ。この上に建造物があったとしたら、どんなに堅固な造りでも一瞬にして破壊されただろう。
「発生直後に調査した際は道路にも段差が生じ通行できなかった」と八木。現在はすっかり直され、2年前の出来事を知らなければ何げなく通り過ぎてしまいそうな道だ。「田畑も至る所に亀裂が入っていたが、もう見えないね。人間生活に直接関係する場所では、断層が消えるのは早い」
東日本大震災から1カ月後の地震でずれた地面。黄土色の地層がむき出しになっている=福島県いわき市
本県も要注意
日本列島はいまもなお広い範囲で余震が続く。隣県の新潟や秋田では震度5強の地震が発生。山形県でも福島との県境付近で群発地震が起きている。M9という巨大地震によって地殻のバランスが崩れ、3・11以降、どこでどのような地震が起きてもおかしくない状況になったと指摘する専門家も多く、「本県でも既知の活断層が動く可能性を真剣に考えておく必要がある」。八木は警鐘を鳴らす。=敬称略
【ズーム】地表地震断層 地震時、地表に現れる断層。実際に地震を起こすのは地下深くの断層(震源断層)で、変位が地上まで達しないこともある。地表地震断層は、地下にある震源断層と明確に区別する際に使われる。
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る
もっと見る