これまで1年にわたって本県の活断層を中心に、位置情報や危険度などについて記してきた。この項では地震災害で生き残るためには何が大切か、さまざまな資料を基に具体策を紹介してみたい。
【その瞬間を生き延びる】家を補強、室内点検-海岸で遭遇、すぐ高台へ
防災対策には優先順位がある。水や食料はもちろん大事だが、それらが必要となるのは地震の後。強烈な揺れで命を失えば、防災グッズは全く意味をなさない。ではその瞬間を生き延びるためには何が必要か。
まず大切なのは家の倒壊を防ぐことだ。1995年の阪神大震災では多くの人々が家の下敷きになり圧死した。チェックしたいのは81年以降に建てられたのか否か。この年6月、建築基準法が改正され耐震性が強化された。それ以前の建築物は耐震診断を受けたい。
しかし、補強には当然費用が掛かる。ただし、だから何もしないでおくというのは最悪の選択だ。
お金をあまり掛けないでできる対策もある。例えば寝室。タンスが倒れないように固定金具を使う。天井と家具の隙間に段ボール箱などを挟んでおくだけでも効果がある。家具類が倒れても頭だけは守りたい。枕の位置を変える手もある。ベッドの横に低い棚を置くのも良い。天井が落ちたり、高いタンスが倒れたりしてきても空間が生じて助かった例がある。
窓ガラスが割れて散乱すると、逃げる際、足の裏を切ってしまい、避難が困難になる。窓ガラスに飛散防止フィルムを張っておく。手軽なのはカーテンだ。日中、レースのカーテンをしておくだけでも有効。ベッド脇にスリッパや靴を置いておくと安心だ。笛を備えておけば万一閉じ込められた際、自分の位置を伝えることができる。
自宅の中でキッチンは最も危険な場所だ。重い冷蔵庫が倒れ、電子レンジ、炊飯器が宙を飛ぶ。包丁や高温の油、熱湯…。煮立った鍋を気に掛けたり食器棚を支えたりすることは命取り。すぐにキッチンを離れることが肝要だ。
浴室は床がぬれて滑りやすい。カミソリや手鏡などが散乱する可能性があり、停電時、不用意に浴室から飛び出すとけがをする。物が落ちていないか探りながら落ち着いて行動したい。
建物の中で比較的安全なのは廊下。壁と柱の密度が高く、転倒するような家具や家電製品がない。玄関や各部屋とつながっており逃げる際にも有利だ。
職場で被災した時はどうか。キャビネットや棚、ロッカー、コピー機…。強震では凶器となってわが身を襲ってくる。窓際から離れ、机の下に隠れるなど身を守りたい。
運転中なら急ブレーキは禁物。ハンドルをしっかり握って、前後の車に注意しながら徐々に速度を落とし左側に停車する。
海岸で最も恐ろしいのは津波だ。避難指示や勧告を待たずに高台を目指したい。車は「空気の入った箱」。車輪が水没すると車体が浮いて制御できなくなる。渋滞に巻き込まれる恐れもある。車から離れ全力で高い場所に逃げたい。
意外に参考になりそうなのが前兆現象。1894(明治27)年の庄内地震では湧き水が止まったことなどから地震を「予知」し、警鐘を鳴らした男性がいた。東日本大震災の1カ月後に起きた福島県浜通りの大地震では、地震前に地元の人が「ドドドーン」という地鳴りを聞いている。科学的に証明されたとは言い難いが、危険箇所や防災グッズをあらためて点検するきっかけにしたい。
人と防災未来センター(神戸市)にある阪神大震災直後の再現ジオラマ。自分の命を守れるのはまず自分。地震時にどんなことが起こるのか想像し、大災害に備えたい
【生き残った後】食料、水は最低3日分-非常持ち出し品は必須
生き残った後、必要になるのが食料だ。最優先なのは水。健康な人なら1週間、何も食べなくても死なないが、水分は2~3日が限度だという。1人当たり1日2~3リットルは準備したい。非常食は缶詰、レトルト・インスタント食品など。支援物資が届くまで、最低3日分は確保すること。
避難時に用意したい「非常持ち出し品」を以下に列記する。
水、食料、通帳、印鑑、現金、救急箱、ヘルメット、防災頭巾、軍手、懐中電灯、ラジオ、衣類、下着、毛布、マッチ、ろうそく、使い捨てカイロ、ウエットティッシュ、筆記用具、ナイフ、ライター、缶切りなど。
懐中電灯は、手回し式でラジオ付き、携帯電話の充電が可能なタイプもある。必要なものは時間の経過とともに変わってくる。例えば飲料水、笛、懐中電灯は常に携帯する。とっさの時の持ち出し品は厳選して軽くする。一度自宅を離れ、後日、取りに来ることができるものは、安心ストックとして多めに確保するなど、家族の人数や生活スタイルに合わせて考えたい。
【活断層と減災】自助の大切さ再確認-情報集め「その時」想像
活断層は「揺れ」と「ずれ」への対応が必要だ。政府の地震調査研究推進本部は全国の断層帯について、どんな規模の地震が、どの程度の確率で起こるのか公表。山形市や酒田市など各自治体は「揺れやすさマップ」を作成している。断層の位置情報は国土地理院が発行する「都市圏活断層図」で確認できる。ホームページでも閲覧できるので一度確かめておきたい。
活断層の活動間隔は千年単位と大きく、大地震はまれにしか起こらない。だが万一動いた場合、断層上の建物は被害を免れない。せめて、学校や病院、公民館など重要な公共施設を新設する際は断層を避けたい。
大規模災害時には消防隊や自衛隊、警察が懸命に救出活動に当たり、ボランティアも活躍してくれる。しかし、支援が届くまでは自ら生き延びるしかない。行政に依存せず、自分自身で想像してみること。さまざまな減災策を紹介したが、結局自分の命を守れるのは自分。自助の大切さをあらためてかみしめたい。
【主な参考資料】「防災マニュアル」(総務省消防庁)「減災グッズを備えよう!チェックリスト」(人と防災未来センター)「大地震!とっさの行動マニュアル」(廣済堂あかつき)「震災から身を守る52の方法」(アスコム)「大震災・原発事故から命を守るサバイバルマニュアル100」(ミヤオビパブリッシング)「地震対策完全マニュアル」(PHP研究所)
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