南陽市を襲った豪雨は、吉野川と織機(おりはた)川流域の住民の生活を一変させた。あれから1カ月、地域の連携やボランティアの協力で住宅の片付けにめどが付き、災害前の生活を取り戻しつつある。ボランティアの力に住民は「本当にありがたい」と深く感謝する。一方で高齢者や1人暮らし世帯の不安は消えず、地域を挙げた防災態勢の強化を求める声が高まっている。
市危機管理課によると、市内の建物被害は11日現在で倒壊や床上浸水、床下浸水など計707棟。豪雨直後、各家庭の前に積まれていた泥だらけの家具や土のうは片付けられ、現在は消毒用にまいた石灰の跡が一部に残るだけに見える。
赤湯地区で吉野川沿いに1人暮らしする嶋津ゆきさん(89)=二色根=方は床上浸水した。床下や庭の泥を取り除き、先月下旬には新しい畳が届いた。室内には真新しい畳の香りが漂い、新たな生活が始まったことを感じさせる。「うちはまだいい方。もう暮らせないと引っ越した人もいるようだ」。同じ場所で再出発する人がいると同時に、住み慣れた家を離れるケースも出ている。
1軒当たりの被害が大きかった漆山地区。織機川が土砂で埋まり、周辺の民家の多くが水と土砂に襲われた。「今は汚れた家具を少しずつ洗いながら暮らしている」と話す桑原正子さん(79)=池黒。被災後に多くのボランティアの力を借りた。「自分のことのように一生懸命やってくれた。あっという間に片付いたよ」
市社会福祉協議会が設置したボランティアセンターは、豪雨が収まった2日後の先月13日に始動した。全国からボランティアが駆け付け、県内外の企業、団体、高校などから想定以上の協力が得られ、作業は順調に進んだ。開設22日間での参加者は延べ3696人。赤湯地区のほかに漆山地区に「サテライト施設」を設けることができた。市社協関係者は「ボランティアの輪が広がり、予想より早く市民生活が復旧できた」と話す。
一方、今回の災害で行政による公助はもちろん、住民による自助、共助の大切さを感じた市民は多い。市内の自主防災組織の組織率は全自治会の85%。今回の豪雨後、市危機管理課には未組織の自治会から自主防災組織の設立や運営方法の相談が寄せられているという。
赤湯地区長会長で市地区長連絡協議会長の新山真弘さん(66)は「昨年の豪雨以降、自治会で緊急連絡網を作成するなど活動が広がっていたが、今回の豪雨被害は自分たちでできるレベルを大きく上回っていた」と振り返る。その上で「自治会ごとに危険箇所を把握したり、避難態勢を確立したりすることも必要」と話した。市内の自治会関係者は、住民に一番身近な自主防災組織の活動見直しと強化に目を向けている。
応急対策とは別に織機川の四ツ谷橋上流で行われている砂防用大型ブロックの設置作業。下流に土砂を流さない取り組みが進められている=7月31日、南陽市漆山