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【海坂藩の風景】小川の辺 霞城公園・東大手門・山形

2017年07月06日
映画の冒頭、過酷な藩命を受けた主人公・戌井朔之助が城から出てくるシーンを撮影した霞城公園の東大手門=山形市(イラストは場面のイメージ)
映画の冒頭、過酷な藩命を受けた主人公・戌井朔之助が城から出てくるシーンを撮影した霞城公園の東大手門=山形市(イラストは場面のイメージ)
 「小川の辺(ほとり)」は冒頭から、画面に緊迫した空気が流れる。海坂藩の藩士戌井朔之助(いぬいさくのすけ)(東山紀之)は夜、城内に呼ばれ、お上の命令が伝えられた。藩政を批判し脱藩した佐久間森衛(もりえ)(片岡愛之助)を討て、と。朔之助は固辞する。一緒に逃げている佐久間の妻田鶴(たず)(菊地凛子)は実の妹だった。これまで戌井家におとがめはないが、断るとどうなるかは分からない。結局、引き受けるしか道はなかった。

 朔之助は重い足取りで門をくぐり、城外に出た。この場面が山形市の霞城公園・東大手門で撮影された。東大手門は台湾ひのきを用いて1991年に完成した。堂々たる石垣と門は、あらがうことのできない「藩命」の重さを象徴しているようだ。

 朔之助は佐久間の処分に疑問を抱いていた。佐久間は郡代次席という立場ながら藩主に直接、農政改革案を提出した。それはまさに「正論」だったが、自身の政策を批判された藩主は激怒した。正論をかざす部下、煙たがる上層部、部下の胸中を理解しながらも命令に従い、業務を遂行しなければならない中間管理職―。現代社会にも通じる人間模様が描かれている。

春は桜の名所としてにぎわう。平日の日中でも地元の人や高校生、観光客が多く行き来する
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 藤沢さんはエッセー「時代小説の可能性」の中で「時代や状況を超えて、人間が人間である限り不変なものが存在」し、それを「人情という言葉で呼んでもいい」と書いていた。そんなことを思い出しながら、東大手門の櫓(やぐら)門を撮影していると、軽やかに、砂利を踏み鳴らして歩く老夫婦に声を掛けられた。「新聞、読んでいるよ」「暑い中、大変ねえ。頑張って」。遠ざかる二人の後ろ姿に、深々と頭を下げた。
(報道部・鈴木悟)

 【小川の辺】
 ▽監督=篠原哲雄
 ▽出演=東山紀之、菊地凛子、勝地涼(2011年)

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