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【海坂藩の風景】山桜 手向宿坊街の路地裏・鶴岡

2017年07月13日
叔母の墓参りの帰り道で言葉を交わす野江と母親のシーンを撮影=鶴岡市羽黒町手向(イラストは場面のイメージ)
叔母の墓参りの帰り道で言葉を交わす野江と母親のシーンを撮影=鶴岡市羽黒町手向(イラストは場面のイメージ)
 出羽三山の表玄関に位置する鶴岡市羽黒町手向(とうげ)の宿坊街。表参道沿いの「自坊小路(じぼうこうじ)」を抜けると裏道に出る。色あせた黒塀、こけむす石垣。主人公・野江を演じる田中麗奈が、母親役の檀ふみと並んで歩くシーンが撮影された。「ほんの少し回り道をしているだけ」。作品全体を言い表すようなせりふが心に残る。

 撮影時はアスファルトの路面を覆うため砂をまいた。側溝部分にはテープを貼り、その上から砂をかけ目隠しにしたという。芳賀壮一さん(66)の自宅敷地の奥にある米蔵が、そのシーンで映し出される。「撮影場所は裏道。多くの人が行き交う表とは違う生活道」と説明する。参拝者らを迎える表参道には見事なアカマツが並ぶ一方、裏道には暮らしに身近なスギが多いことを教えてくれた。

 出羽三山歴史博物館の渡部幸学芸員によると、撮影地近くの黄金堂前はかつて「堂庭」であり、神域だった。そのため馬などは通れず、小路を抜けて裏道を回ったという。裏道には馬道との呼び名も残る。なお、自坊小路の自坊とは羽黒山伏のこと。小路の先に自坊の屋敷があることを指し、それだけ有力者だったことがうかがえる。知れば知るほど「回り道」したくなる街並みだ。

 (鶴岡支社・佐々木亨)

 【山桜】
 ▽監督=篠原哲雄
 ▽出演=田中麗奈、東山紀之
(2008年)
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