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【海坂藩の風景】蝉しぐれ 玉川の祠・鶴岡

2017年10月05日
牧文四郎が少年たちとけんかをするシーンが撮影された。奧に見えるのは、ふくが牧家の無事を祈った祠=鶴岡市羽黒町玉川
牧文四郎が少年たちとけんかをするシーンが撮影された。奧に見えるのは、ふくが牧家の無事を祈った祠=鶴岡市羽黒町玉川
 田んぼの脇の細い道が森に延びている。そばには小さく赤い鳥居と古びた祠(ほこら)―。映画「蝉しぐれ」で何度か登場するこの風景は、鶴岡市羽黒町玉川に今もそのまま残っている。

 少年牧文四郎(石田卓也)は海坂藩のお世継ぎ争いに巻き込まれ捕らわれた父助左衛門(緒形拳)に会いに行く。その際、隣家の娘ふく(佐津川愛美)が無事を祈ったのがこの祠だ。助左衛門は死罪となり、文四郎が遺体を荷車に載せ炎天下、ふらふらになりながら家まで運ぶシーンも撮影された。

 印象的なのは、ふくが江戸に旅立つ前日の場面。母親から「牧家とはもう関わるな」と言われていたふくが文四郎の家を訪ねる。秘めていた思いを打ち明けようとしていた。しかし、文四郎は留守だった。間もなく戻った文四郎はふくを追い掛けたが、祠の近くで少年たちから「反逆者のせがれが…」と因縁を付けられ、袋だたきに遭う。結局、2人が会うことはかなわなかった。

ロケ地周辺には、黄金の稲穂がじゅうたんのように広がっていた
ロケ地周辺には、黄金の稲穂がじゅうたんのように広がっていた
 原作小説では、急いでふくを探したが会えなかった―という書き方で、映画の方が別れをドラマチックに描写している。

 近くに住む大工の岡田誠さん(68)は「仕事で映画の撮影の様子は見ていないが、後から『子どもたちがチャンバラしていた』と聞いた」と当時を振り返る。この祠は「不動さま」を祭り、毎年4月下旬には地区の住民がそろって参拝するのだと教えてくれた。

(報道部・鈴木悟)

【蝉しぐれ】
 ▽監督=黒土三男
 ▽出演=市川染五郎、木村佳乃、緒形拳(2005年)

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