【没後20年・生誕90年】小菅先生と教え子たち(上) 工藤司朗

2017年11月27日
 藤沢周平さん(本名小菅留治)は山形師範学校を卒業後、古里鶴岡・湯田川中の教壇に立った。肺結核に冒され休職を余儀なくされたため、教師生活は2年間だったが、教え子たちの中で「小菅先生」との日々は色あせない。今月は教え子3人に小菅先生との思い出をつづってもらった。

      ◇ 

 小菅先生が旅立たれてからもう20年にもなるのでしょうか。銀座の「おばこ」で先生と2人で飲んでいる時に、突然、「シロ君、奥さんを大事にしなよ!」などと言われたことが、つい先日のことのように思い出されます。

藤沢周平さんを囲む会「泉話会」のひとこま。前列左から2人目が藤沢さん、後列中央が工藤司朗さん=1984年ごろ
藤沢周平さんを囲む会「泉話会」のひとこま。前列左から2人目が藤沢さん、後列中央が工藤司朗さん=1984年ごろ
 東京・東村山の病院に入院していた先生をお見舞いして以来16年ぶりに、先生と再びお会いすることになりました。1971(昭和46)年3月のことです。きっかけは、同期の松田建雄君からの電話でした。彼は当時、静岡に住んでおりました。十数年会っていませんでしたが、小菅先生が「藤沢周平」のペンネームで書いた小説が今、オール読物新人賞の候補になっている、という話を聞き、早速買い求めて読みました。「溟(くら)い海」の題名の通り、暗い感じの内容でしたが感激し、先生のお勤め先に電話をかけたのでした。

 仕事終わりの先生と会い、その足で「おばこ」に行きました。そこで2時間あまり飲みながら、先生が学校をお辞めになってからのことなどを語り合いました。先生は日本酒を2、3本飲まれていたと思います。

 そのころには新しい奥さまを迎えておられましたが、病気回復後に結婚された前の奥さまを亡くされて、乳飲み子を育てながらの生活は、勤め先も遠く時間がかかり、言葉に表せない苦労だったようです。また、奥さまを病から救えなかった思いも相当心の重荷になっている様子でした。この時分は、新しい奥さまと娘さんの展子ちゃんも仲良くご一緒に生活され、心も落ち着いてきた、と話していました。

 私は現在の会社のこと、同級生のことなどを話しました。4月にはオール読物新人賞を受賞され、早朝に祝電を打ちました。その時点では、教え子との接触もほとんどなく、小菅先生と藤沢周平を結び付けて小説を読んだ生徒は1、2人かと思います。

 72年の初め、1年先輩の菊地仙二さんに偶然、人形町駅でお会いし、先生のことをお話しすると、ぜひ会いたいということになり、3人で「おばこ」に集まりました。話が弾み、その後も3人で3、4回会いました。翌73年には「暗殺の年輪」で直木賞を受けられ、菊地先輩と一緒にお祝いの万年筆を贈りました。授賞式には、副担任だった大井晴先生と菊地先輩、私が招待いただきました。自分のことのように晴れがましい気持ちで出席をしました。

 私は先生の小説をほとんど月刊誌ですぐに読んでおりましたので、お会いすると「暗い結末になるとガックリと救われない」などと生意気を言っていました。先生は「今はまだ明るい小説を書く気にならないので、もう少し時間をくれよな、シロ君」と話していました。

 受賞後、相当のスピードで作品を書いていましたが、登場人物の名前に苦労しているという話を聞いたことがありました。私の田舎の家にある古い芸妓さんたちの通い帳の話をすると「ぜひ欲しいね」と話されていましたが、実現せずじまいでした。73年の暮れごろに、先生は「会社を辞め、作家一筋でいこうと思う」という旨をお聞きしました。書くことはたくさんあるので、大丈夫ということでした。

 私が先生の小説に明るさを感じたのは、76年の「用心棒日月抄」でした。先生にそのことを話すと、「そうか、それは良かった」と笑っていました。その後、79年から先輩たちと一緒に先生を囲む会「泉話会」を都内の料理店「はりまや」で毎年開きました。「小菅先生」から「藤沢先生」に呼び方が変わってきたのは、始めて2、3年後からでした。先生とのお話の端々から「展子ちゃん」の幸せを願っていることを感じました。
(横浜市)

 ▽くどう・しろう氏は1937年鶴岡市湯田川生まれ。鶴岡南高を卒業後上京し就職。建築資材販売施工会社の役員を務めた。現在、横浜市卓球協会副理事長。
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