【没後20年・生誕90年】小菅先生と教え子たち(下) 萬年慶一

2017年11月29日
1994年10月に藤沢周平さんが帰郷し、湯田川温泉の九兵衛旅館に泊まった際に撮影した1枚。右が萬年慶一さん、左は教え子の1人で同旅館女将の大滝澄子さん
1994年10月に藤沢周平さんが帰郷し、湯田川温泉の九兵衛旅館に泊まった際に撮影した1枚。右が萬年慶一さん、左は教え子の1人で同旅館女将の大滝澄子さん
 小菅留治先生(藤沢周平さん)は、湯田川中に赴任当初は2年生の担任でした。ところが学校側の都合で、私たち1年生の担任が学期途中で鼠ケ関に転任することになり、小菅先生が私たちの担任になられました。その後、わずか2年間の中学教師生活でしたが、その職に真っ向から取り組んでおられました。そんな時期に巡り合えた私は本当に幸せ者だと思っています。

 先生は国語、社会が専攻といわれていますが、私たちは理科、音楽、家庭科以外は全て小菅先生から教わりました。特に先生は読書に熱心で週1、2回のホームルームの時間は本の読み聞かせをしてくださいました。本の両隅を支え持ち、教室を回りながらの読み聞かせで、「レ・ミゼラブル」は強く印象に残っています。特に執拗(しつよう)に追い続ける刑事の目を意識しながらも、馬車の下敷きとなった人を救い出すべく自ら馬車の下に潜り込み、渾身(こんしん)の力を込める場面は、私自身、手に汗したように感じたのを今でも思い出します。

 この読み聞かせの記憶は、同級生みんなにも残っているようでした。後に記念碑を建立する際にも、建築設計士である同級生に相談したところ、開いた本を両手で支え持つ姿をイメージした独特の形が考え出されました。

 話は元に戻りますが、中学2年生ではまだ教科書には出てこない漢詩「凱風」や、上田敏翻訳の詩「落葉」などを教えてくれました。当時の湯田川中は小学校に継ぎ足して増築された校舎で、特別教室は1室だけ、図書室はありませんでした。そんなことから、先生は教室の片隅に本棚を置き、学級図書をつくりました。

 当時、私たち一般家庭にあるのは月刊雑誌ぐらいでしたので、まとまった本を持っている児童の家庭に頼み込み、本を貸していただいて取りそろえたのでした。放課後、その本の表紙をハトロン紙で丁寧に包み込む作業を数人で手伝いましたが、普段はゴツゴツした父や祖父の手しか見ていない私は、その時の先生のすらっと伸びた細い指先がとても印象的だったことを覚えています。

 先生は本当に優しく、ほとんど怒った姿を見たことはありませんが、私は1回だけ叱られた記憶があります。ある日の放課後、男女数人が教室に残っていたのですが、男子が女子の筆入れを隠したのです。いたずらをした子だけでなく、私も含めその場にいた全員が、中指をとがらせたげんこつで、脳天をコツンとやられました。そして、「黙って見ていたのがだめなんだ」と言われました。間違ったことや曲がったことが大嫌いな先生でした。よく「人は一人では生きられない。みんな一緒なんだ」と話していました。

 先に触れた先生の記念碑建立は自然の成り行きでしたが、先生は頑として首を縦に振りませんでした。最終的には認めてくださいましたが、その経緯は先生のエッセー「碑が建つ話」に書かれてある通りです。先生が亡くなる前年、湯田川小前に建てられた碑はここに来て学校の廃校、取り壊しによって、小学校跡地の一角に整備された公園内に移設されました。今度こそ“終(つい)の住み処(か)”となるよう願っています。(鶴岡市)

 ▽まんねん・けいいち氏は1937年鶴岡市湯田川生まれ。鶴岡藤沢周平文学愛好会代表を務める。農業。元JA鶴岡市理事。
藤沢周平生誕90年、没後20年 記事一覧
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