続・藤沢周平と庄内

【最上改易と荘内藩】本藩・支藩・天領

 藤沢さんの庄内を扱った史実もののほかに、「海坂藩」もの、あるいは「北国の小藩」を舞台にした作品は、荘内藩をモデルにしていることは論を待たない。作品にはまた、本藩、支藩の関係にある隣接の城下が登場する。幕領(天領)が物語の舞台になることもある。荘内藩を本藩にした場合、支藩は松山藩、幕領は大山ということになる。

 庄内の歴史の骨格が、藤沢さんの作品の下敷きになっているケースはよくある。作品の舞台を推察しながら、庄内の歴史散歩をしてみよう。

 荘内藩主酒井家が信州・松代から入部したのは元和八(一六二二)年である。幕府は山形城主最上義俊を藩内不統一を理由に改易し、最上氏の旧領を次のように分与した。つまり、山形二十二万石を鳥居忠政、上山(かみのやま)四万石を松平重忠、左沢(あてらざわ)一万二千石を酒井直次、白岩八千石を酒井忠重、真室六万八千二百石を戸沢政盛、荘内十三万八千石を酒井忠勝、その他を幕府領、である。いずれも、鳥居の縁族で固め、奥羽の外様勢力に備えた。なお、直次と忠重は忠勝の弟である。

 庄内に入部した忠勝や家督を次いだ忠当(ただまさ)の時代、士分の新規採用が行われ、そうした様子は藤沢さんの初期の作品『証拠人』『ただ一撃』などに詳しく描かれている。また、『長門守の陰謀』『相模守は無害』など、白岩藩主酒井忠重を巡る、史実を基にした作品もある。忠重は兄忠勝の偏愛を得、実子を荘内藩の世継ぎにしようと画策するが失敗する。白岩領内では苛政を敷き、農民一揆が頻発する。結局は領地を召し上げられ、非業の死を遂げる。

 荘内藩主酒井忠勝は、その遺言で三男忠恒(ただつね)に北隣の松山二万石を、七男忠解(ただとき)に海に画した西隣の大山一万石を分知した。大山の忠解には世子がなく、一代で断絶した。大山はこの後、幕領になったり荘内藩の預かり地になったりするが、住人には天領の意識が強く、その後も時として藩との対立が起こった。『義民が駆ける』で、領内事情を探りに来た川越藩の密偵が潜むのはこの大山地区である。

 松山藩は明治維新まで続くが、本藩の荘内藩は目付の家老を派遣して本藩、支藩の関係を維持した。

 藤沢さん晩年の作品に『偉丈夫』という短編がある。平成八年の「小説新潮」一月号に掲載された。本藩の「海坂(うなさか)藩」と支藩の「海上(うなかみ)藩」の、漆木を主木とする山の境界争いを描いている。海坂藩の始祖が次男を愛し、死没する時に藩から一万石を削って与え、幕府の許しを得て支藩とした、という説明を入れている。ここでいう海上藩は、松山藩をイメージさせる。

 『三屋清左衛門残日録』の主人公・三屋清左衛門がよく行く小料理屋の「涌井」。城下の花房町にある。そこのおかみ「みさ」は三十三歳。薄幸の女である。この地方、つまりは庄内の郷土の味を提供して清左衛門らを喜ばせる。黙って座っていれば、うまい肴でほどよく酔わせて帰す。余計な気をつかわずに済むのである。一緒に行く、幼なじみで奉行の佐伯熊太などは、人の分まで「赤蕪」漬けを食べる。居心地のいい店なのだ。そのみさは、清左衛門に秘かな思いを寄せている。

 物語の終わりに近いくだりで、みさは、郷里に帰ると清左衛門に打ち明ける。生まれは隣国の狭沼(さぬま)。「狭沼領は隣国の支藩で、北辺の山に囲まれた盆地を城下町とする三万石足らずの小藩である」という。言葉もわずかに違う。遠い土地から来た女子だと清左衛門は思う。城下からは遠く弥勒岳が望める。この山は荘内藩領の北辺にそびえる鳥海山であろう。状況設定からいえば、狭沼は松山藩でなければならないのである。

 鳥海山の広いすそ野の南端に当たる松山町は、鶴岡市から北へ約三十キロ。車のない時代、十里近い道のりはやはり遠いのである。

 『帰還せず』という作品に出てくる本藩の加治藩、支藩の小出加治藩、それに隣接する天領は、荘内藩、支藩の松山藩、天領の大山と似通っているが、状況はいささか違っている。小出加治藩には港があって、船の出入りが頻繁なのである。そして、本藩に負けないほどの資力を蓄えている。

 庄内の松山藩は山と平野に囲まれた土地である。海には遠く、荘内藩とは比較にならない小藩であった。そして、加治という名前から連想されるのは、大山に近い海に面した「加茂港」である。古くからの港で、酒田に次ぐ繁盛振りであった。この作品では、庄内のそうした地理的な状況と歴史とを巧みに重ね合わせた架空の藩を作り上げている。こういう作品もまた、藤沢さんの小説には多い。

続・藤沢周平と庄内 海坂藩まぼろし

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