【作家の責任を問う】茂吉と光太郎

 文章にして公表するのと講演などで話をするのとでは、思っていることの表現に差が出てくるのだろうか。時として講演などでは、考えていることがストレートに出てしまう傾向にあるようだ。本音がのぞくのである。

 藤沢周平さんが平成元年、県立鶴岡北高校の同窓会「如松会」東京支部で行った講演は、歌人斎藤茂吉と詩人高村光太郎の、戦争協力に対する責任の取り方について、文字通り歯に衣着せぬ言及をしている。茂吉の自省のなさを指摘する藤沢さんの言葉は峻烈(しゅんれつ)でさえある。そこには作家の責任とはどういうものであるか、あるいは歴史小説家としての姿勢はどうあるべきか、という藤沢さん自身の基本的な考え方がにじんでいる。

 この講演の前年、藤沢さんは「短歌現代」(短歌新聞社)に「雪が降る家-光太郎と茂吉」と題して随筆を寄せている。要約すると、次のような内容である。

 岩手・花巻郊外で見た光太郎の山小屋は、多分、冬は雪が入り込んでくるだろうと思われる粗末な作りである。そこに七年間も住んだ光太郎の「自責」はいかに強いものであったか。この詩人は、戦争中に軍に協力したことを非常に後悔し、自らがいう「自己流謫(るたく)に入るのである。そして生み出したのが詩『暗愚小伝』である。

 一方の茂吉は、大石田の聴禽(ちょうきん)書屋に住み、結城哀草果や板垣家子夫という歌の弟子の世話を受け、歌集『白き山』という傑作を生む。

 『白き山』に(戦争協力の)懺悔(ざんげ)の響きはあるが、「しかしそれが光太郎の痛ましいほどの自己点検におよばないのは、両者の気質の違いだけでなく、戦争協力の認識の有無にかかわることのように思われる」(「雪が降る家-光太郎と茂吉」)と書いている。比較的穏やかな結論である。「戦争協力の認識の有無」についての説明はない。

 「如松会」東京支部の講演は「高村光太郎と斎藤茂吉-二人の作品と戦争との関係-」と題して行われ、藤沢さんは、話のほとんどをこの「戦争協力の認識の有無」に割いている。

「如松セミナー特別講座」から、幾つか藤沢さんの言葉を引用してみよう。

 「こういう経歴や状況が二人は大変似ているのですが、光太郎と茂吉の決定的な違いは、茂吉も戦争協力をしているのに、茂吉には光太郎のような自責の念がまったくなかった、ということです」。そして、戦争が終わっても、熱狂的な戦争賛美者である「茂吉に限ってはまったく夢から覚めるということがなかったように思われる」とも述べている。

 「戦争協力の詩とか歌とかは、それを読んで未練を断ち切って戦争に行った人があるかもしれない、それを気持ちの支えにして死地に赴いた人がいるかも知れないということを考えるべきもので、文人とか小説家、歌人といった人に戦争責任があるとすれば、まさにこの一点にある訳ですが、茂吉の頭にそれがなかったのはいささか寂しい気持ちがします」と手厳しい。さらに「これは、私の独断と偏見みたいなものですが、茂吉という人には田舎生まれの一種の鈍感さみたいなものがあったのではないか」と指摘している。

 救いの手も差し伸べている。「茂吉は、どちらかというと、歌と精神科の医師という職業に関しては非常に熱心であるけれども、他のことには本質的にあまり関心がなかったのではないかという気がします」と語っている。

 藤沢さんがここで言いたいのは、詩人であれ、歌人であれ、そして作家であれ、書いたものに責任を持て、ということだろう。

 偉大な歌人ではあっても、茂吉の「戦争協力の不感症ぶり」は到底許すことのできないものだったようである。藤沢さんの本音がここにはみえる。少なくとも、光太郎の七年間という痛ましいほどの自己点検、自己流謫に作家としての共感を抱いている。いや、むしろ人間として共鳴している。

 歌人長塚節(ながつかたかし)を主人公にした歴史小説『白き瓶』を書いたのは、この講演の六年前に当たる。当然、歌人・斎藤茂吉についても詳細に調べ上げている。「歴史を読み取るには複眼的な思考が必要だと思います。歴史というものは決して一面的でなく勝者の論理があれば必ず敗者の論理があります。それが歴史の総体であろうと思うのですが、茂吉の生涯も既に歴史でありまして、これを理解するには一面的でない見方が必要です」と、歴史小説家としての視点で分析している。つまり、茂吉は偉大な歌人ではあるが、人間的な欠点もあったのではないか、と。

 歴史小説家・藤沢周平の目から見た「茂吉と光太郎」ということだろう。

続・藤沢周平と庄内 はるかなる藤沢周平

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