幼友達・五十嵐久雄さん 少年時代のつらい思い出

「そのころもっとも親しくしたのが五十嵐久雄さんで、私たち二人は休み時間によくくっついて校舎の内外を歩き回ったり、校庭に下りる石段に腰かけて話したりした。小学校の五、六年のころ、久雄さんは級長、私は副級長で、そして二人ともどもりだった。(中略)子供から大人になりかけのころ、深い友情が生まれることがある。高等科一年のころの私たちがそういう状況だった。話の中身など何でもよく、一緒にいるだけでたわいなくうれしかったのだ。」(『半生の記』)

 青龍寺尋常高等小学校で五十嵐久雄さんは、小菅留治(藤沢周平)さんに出会う。3年生から特に親しくなる。2人とも「吃音(きつおん)」であった。「少年倶楽部」や「立川文庫」、「譚海(たんかい)」などの雑誌、高垣眸の『まぼろし城』『怪傑黒頭巾』、吉川英治の『天兵童子』などを夢中で読み耽(ふけ)った仲である。そして運動嫌いも共通していた。級長、副級長という関係も、2人の仲を近くした。

 『半生の記』にも紹介されているが、こんなエピソードがある。5年生の時、担任は宮崎東龍先生だった。宮崎先生は癇癪(かんしゃく)持ちで、児童の態度が悪いと授業をほうり出して職員室に帰ってしまうのである。五十嵐さんと小菅さんが職員室に行き、「せ、先生」と詫びを入れる。2人とも申し合わせたようにぽろぽろと涙をこぼす。「先生の顔を見ると、胸がいっぱいになって涙が出た。留治君も感極まって泣きだす。聖職者というのは、宮崎先生のためにある言葉、という印象だった」と五十嵐さんは語る。

 ■記憶力が抜群の少年
 宮崎先生は、授業中に本を読んでくれた。ユーゴーの『レ・ミゼラブル』などを、少しずつ朗読してくれる。宿題をさぼると、朗読はお預けになる。聞きたい一心で、みんな宿題をやってきた。「留治君の読書量が増えたのはこの頃からだと思う」と五十嵐さんは振り返る。おとなしく、記憶力が抜群で、あまり目立たない少年だった。

 風呂敷に学校の教材を包み、腰に巻いて通学した。留治少年は、学校の行き帰りも本を読んでいたという。遊びはメンコ、釘(くぎ)打ち、兵隊ごっこ。野球もやった。もち米を煮て作ったとりもちで鳥刺しもした。ワナを仕掛け、ウサギを捕まえるのも冬の遊びの一つだった。しかし、家に帰ると学校道具を置き、雑誌の貸し借りに明け暮れていたのを鮮やかに思い出す、という。

 「どもりは私の方がひどく、東京の吃音(きつおん)矯正学院からパンフレットを送ってもらい、留治君と2人で住所を暗記していたものです」と五十嵐さんは少年時代のつらい思いを語る。その吃音も、後年、いつの間にかなくなっていた。それは「留治君も同じだったのではないか」とも。

 尋常高等小学校を卒業すると、小菅さんは夜間中学へ、五十嵐さんは農業へと違った道を進む。音信も途絶える。藤沢周平さんが「小菅留治」であることが分かったのは、かなり経ってからだった。オール讀物新人賞の筆者紹介で「あっ」と思ったという。たまたま手にした雑誌で再会したのである。

 藤沢さんが湯田川中学校の教師をしていたこと、結核を患い長い療養生活を余儀なくされたこと、最初の奥さんの早過ぎる死、など知り得べくもなかった。「大変苦労した時代に、友として何もしてやれなかった」との思いが強い。それが五十嵐さんの胸を鋭く突く。

 その後、農協理事から市会議員となった五十嵐さんは、藤沢さんにとって「鶴岡の窓口」だった。よく電話を掛け合った。「久雄どげだや」「しぇー(そうか)」「んだば悪いけど断ってけれや」「悪いのう」。藤沢さんは庄内弁でしゃべるのだった。

 ■小説家は身軽が一番
 一度だけ、藤沢さんは五十嵐さんに小説の話をしている。「『用心棒日月抄』とか、ああいうのは遊びなんですよ、と言っていた。史実に基づいた歴史小説で大作を残したい、という趣旨のことを言っていた。そのためには時間がもったいない。後世に残るような本質を見極めた作品を書くには身軽が一番、ということだった」という。藤沢さんの時代小説家としての本音が見えるようで興味深い。

藤沢周平と庄内 ゆかりの人々

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