幼友達・石川弘さん、石川今朝太郎さん 作文

「小説好きの友人はじつはもう一人いて、その人は同じ高坂の同級生で親密なメンコ仲間でもある石川勇さんの兄、弘さんだった。弘さんは学年で私より二、三年上だったが、私は弘さんとも本を貸し借りし、あるときはお金を出し合って古本を買ったりした。しかし一番うれしかったのは、この年長の友人に鶴岡公園にある市の図書館に連れて行ってもらったことだった。」(『半生の記』)

 石川弘さんの脳裏に、鮮やかによみがえる一つの光景がある。弟や妹をおんぶしている小菅留治(藤沢周平)少年である。そして、いつも本を読んでいる。小学校3年生から6年生のころ。弘少年も年の離れた弟をおんぶしていた。「留治君には2人の弟妹がいて、学校から帰るといつも子守をしていた。私も弟の茂をおぶって、『少年倶楽部』などを回し読みした。留治君にはその後、里子にもらわれてきた少女もいて、その子もおんぶしていた」という。

 ■不平も言わず球拾い
 子守をして駄賃をもらう。2人で50銭たまると、月遅れの「少年倶楽部」を買った。300ページほどの大冊である。吉川英治の『宮本武蔵』なども読んだ。「子守をしていると仲間とはあまり遊べない。留治君の家に毎日のように行って、母親からカタモチを焼いてもらって食べたものです」とも。お母さんは優しい人だった。

 同級生の石川今朝太郎さんは、裏山の金剛山で遊んだことを思い出す。「台地になっていて、ここに登ると鶴岡の市街地が一望に見渡せる。金峯山にもよく登った。作品に出てくる風景の原型はここだ、と思っている」という。

 小菅家の屋敷は広かった。栗や辛夷(こぶし)の大木、スモモ、アンズ、カキ、梅の木などがあった。近所の子供たちが集まっては野球に興じた。留治少年は決まって「球拾い」である。スポーツは得意でなく、おとなしい。わんぱく連中は恰好の「球拾い」を見つけていた。不平をいうでもなく、ごく自然に仲間に溶け込んでいた。「あんなに偉い作家になるとは思ってもいなかった」と今朝太郎さん。

 小菅家の屋敷にはもう一つ思い出がある。秋。稲蔵のわきにあった、大根を干す「さん」をゴールに見立て、ゴム製の大きなボールでバスケットをよくした、という。「今はほとんどが他人の土地になり、面影はない。そばを通ると、野球やバスケットのことを思い出す」という。

 ■小説の名手の出発点
 小学校5年生の頃と思われる小菅留治少年の作文が残っている。同級生が持っていたものだ。わら半紙1枚に書いた「兄弟貯金」と題する作文をここに紹介する。

 「僕は十月十一日の日、一つの箱を利用して貯金箱をつくりました。

 それを柱に打ちつけ、それに僕と妹と次の弟とが入れる事にしました。すると弟が『名前をつけよう。』
と言ったので、僕たちは大さんせいをしました。早速僕が名前を考へました。そして兄弟しか入れない貯金箱だから、兄弟貯金とつけようと言ったら、妹も弟も大さんせいでした。やがて今までのただの箱は、りっぱな名前をもらいました。それから後、僕もお使に行ってもらって来たお金などを貯金箱に入れました。弟もお菓子を買ったりするお金を入れてゐました。一番小さい妹までがお母さんからもらふ一銭二銭のお金を、僕たちのまねをして入れる事がたびたびありました。

 そして皆、貯金箱を開く日をたのしみにまってゐました。

 やがていよいよおととひの日開きました。

 僕たちの兄弟貯金箱はぱっくり口を開きました。僕たちの目は一せいに箱の口に吸ひつけられてしまった。やがて紙の上にみんなあけてみると、思ったより一ぱいあるのに驚きました。銀貨、銅貨みんな数えて、一円二十三銭ありました。僕たちは何時の間にそんなにたくさんになったのだらうと、ただ口をあんぐり開けて見つめました。やがて少しづつでもつもればこんなに一ぱいになるのだと思ふと、思はず心の中で、兄弟貯金萬歳々々と叫びました。」
(原文のまま)

 鶴岡市出身の作家・丸谷才一さんが藤沢さんの弔辞で述べた「小説の名手、文章の達人」の原点である。

藤沢周平と庄内 ゆかりの人々

文字サイズ変更
  • 小
  • 中
  • 大

県内7市発行メールマガジン登録無料

ふるさとだより

GW特別号、26日配信

ニュース特集

スポーツ

教育・子育て

おでかけ

暮らし情報

twitter発信中

山形新聞からお知らせ

  1. 【2017年8大事業】
     山形新聞、山形放送の2017年の8大事業が決まりました。詳しくは、こちらから
  2. 【やましん公式FB】
     山形新聞社は、インターネット交流サイト「フェイスブック(FB)」の公式ページを新設しました。
     公式ページでは山形新聞のニュースのほか、本社からのお知らせなどを中心に紹介します。
     アドレスは、こちらから
  3. 【やましんe聞で動画視聴】
     読者限定の電子版「やましんe聞」で動画を閲覧できる新サービスを始めました。詳しくは、こちらから。
  4. ◆中学、高校の各種スポーツ大会の記録を紹介。検索機能も備えています。アクセス方法はこちら
  5. ◆探したい記事がきっと見つかる、山形新聞記事データベース。他社DB横断検索が便利な日経テレコンジー・サーチファクティバ
  6. ◆県外でも今日の朝刊が朝一で読める「お届け電子版
  7. ◆ニュース速報、高校野球、モンテ情報、おくやみ… 身近な情報を携帯で確認「モバイルやましん
  8. ◆故郷の話題をメールでお届け、ふるさとメール会員募集(登録無料)
山形新聞から
販売から