夜間中学同級生・三村千吉さん 飄風も朝を終えず

「私たちの学校生活は、進行する戦争、それも次第に非勢にかたむきつつある戦争とつねに一緒にあった。(中略)

 予科練の全員志願はそんな状況の中で行なわれたのだが、私がいまだに後悔するのはそのときに国を憂うる正義派ぶって級友たちをアジったことである。たまたま級長をしていて仕方なかったということもあるが、検査に合格した何人かは乗る飛行機もなくて戦後無事に復学したからいいが、何かがあったら仕方ないでは済まなかったろう。」
(『半生の記』)

 小菅留治(藤沢周平)さんは、昭和17年4月、旧制鶴岡中学校(現鶴岡南高校)の夜間部に入学する。昼は鶴岡印刷で文選工として働き、夜は中学に通った。戦時体制下の、国全体が最も窮屈な時代である。

 鶴岡市の庄内ミート社長・三村千吉さんは、当時の雰囲気を次のように語る。「級長をしていた小菅君は、『元』組(クラスの名前)のリーダーだった。頭もよかったし、責任感も強い人だった。中学の最終学年のころだったと思うが、全員が予科練に志願した。周囲の雰囲気がそういうものだった」。

 三村さんはしかし、酒田市で行われた予科練の試験には遅刻してしまう。鶴岡市大山から電車に乗って酒田まで行くことになっていたが、その列車に遅れたのである。後日、特別幹部候補生の試験を受けた。その間、肩身の狭い思いをしたことを覚えているという。「お国のために…」という大義名分が幅を効かせた時代である。皮肉と言おうか、合否の結果が出る前に終戦を迎えるのである。

 ■暇みて映画館通い
 青春時代真っただ中の中学生。暗い時代とはいえ青春を謳歌せずにはいられなかった。映画である。鶴岡市内には鶴岡座、中央劇場、スカラ座の3つの映画館があった。ヒマをみては映画館に通った。学校をサボって見に行ったこともある。

 現在のNHK鶴岡支局辺りに鶴岡の旧家・平田家のサクランボ畑があった。季節になるとたくさんの実をつける。赤くなるころを見計らって、学校の帰り、木に上る。見張りを付けるのだが、先に逃げてしまって役に立たない。何人かは樹上に取り残される。当然、油を絞られる。初夏の甘く、苦い思い出である。

 国語の教師は、秋保親孝先生と春山壮太郎先生だった。秋保先生は『増鏡』『大鏡』などを読んでくれた。春山先生は、漢詩に造詣(ぞうけい)が深く、その蘊蓄(うんちく)を披露してくれた。この辺の事情は『小説の周辺』に詳しい。小菅さんが中学時代に強く影響を受けたのが、この2人の先生である。

 ■漢詩に込めた信念
 三村さんは、後年、藤沢さんから1枚の色紙をもらう。「飄風(ひょうふう)も朝を終えず 驟雨(しゅうう)も日を終えず」(老子)である。大意は、大風もひと朝吹けば止む、大雨も1日降れば止む。人生も辛いこと、悪いことはいつまでも続かない、やがていいことがある。

 「ほれ、分がらねがや、中学の漢文で習ったちゃや」と藤沢さんは、三村さんに解説をしてくれるのである。藤沢さんの苦労の時代を知るだけに、よけい重みがある、という。「本人の信念ではなかったろうか」と、三村さんは感慨深げに振り返る。

 夜間部は2クラスで約60人。農家の二、三男が多かった。会社勤めもいた。鶴岡市の双葉町には当時、遊廓街があった。自慢げに双葉町通いを語る先輩もいたのである。社会に出ている分だけ、そちらの方も進んでいた。昼間部との違いである。

 冬の教室で使う燃料の薪や木炭は自給自足で、金峯山周辺に出かけては薪や丸太を切ってきた。学校のグラウンドには、炭を焼く窯があった。

 小菅さんは、1年で鶴岡印刷を退職し、旧黄金村役場の職員になった。遠い親戚で、助役をしていた高山正雄さんの要請があり、役場に勤務するようになったのである。

 「学校が終わると、小菅君は自転車で帰っていった。私は午後9時15分の電鉄最終で大山に帰った」と三村さん。

 役場で小菅さんは、高山助役の影響もあって『論語抄』を読んだり、老荘思想に親しんだ。高山さんは、旧藩主酒井家を中心に経書の講義を受けたり、農事を勉強したりする集まり「松柏会」の幹部で、陽明学の安岡正篤氏に師事していたという。藤沢さんの漢学の素養はこうして磨かれていった。

藤沢周平と庄内 ゆかりの人々

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