師範学校の同級生・小松康祐さん テーマは『悪』の登場人物

「そのころの私の一日を考えると、茂三さんは下宿で生活をともにしているから当然一緒にいる時間は長い。しかし同じ同級生の小松康祐さんといる時間も長かった。それというのも康祐さんと私は専攻が同じで、学校に行っても大ていは一緒にいるのだが、それだけではなかった。(中略)康祐さんと私はよく一緒に学校をサボった。」(『半生の記』)

 小菅留治(藤沢周平)さんは、昭和21年から3年間、山形師範に学ぶ。山形暮らしである。その間の出来事は『半生の記』の「わが思い出の山形」に詳しい。前述の引用に出てくる「茂三さん」は、小野寺茂三さん、そして「小松康祐さん」は、前松山町教育長の小松さんである。

 「専攻が国語国文で同じ。小菅、小松で出席番号が続いていた。小菅君が前、私が後。私は師範の予科から入ったのですが、小菅君は中学から来た。庄内出身ということもあって親しくさせていただいた。日本文学や俳句の趣味が一緒、というのもあったような気がする。確かに学校はサボった記憶がある」と小松さん。

 その『半生の記』に次のような一文がある。「康祐さんとは常識とは若干違うソフィストケーションといった世界での交遊のたのしさで結びついていたかも知れない」。ソフィストケーションとは、高度の知識・素養、洗練された趣味、のこと。

 ■作者の意図を論議
 2人は文学青年であった。夏目漱石、森鷗外、芥川龍之介、倉田百三、野間宏、大岡昇平、太宰治、尾崎紅葉、有島武郎、菊池寛…と日本文学のほとんどを手当たり次第に読み耽った。山形市の郁文堂、遠藤書店、高橋書店、高陽堂、八文字屋、それに古本屋など、本屋巡りも楽しみの一つだった。お互い、本を買っては貸し借りする。テーマや作者の意図、登場人物やストーリーなどについて、感想を述べ合うのである。

 「確か『坊ちゃん』だったと思いますが、言文一致体という試みのほか、悪を懲らしめる痛快さだけを作者は書こうとしたのではなく、いわゆる『悪』の登場人物がどうなるのか、も大きなテーマではないのか、など論議したものです。文学の楽しみ方を教わった気がする。学校をサボるというのは、そうした好きな事を話し合える時間が欲しかったから」と小松さんは振り返る。

 藤沢さんの漢学の知識が深いことは既に書いたが、小松さんも旧松嶺藩の藩校「正心学校」で漢文を学び、心得があった。『論語』『大学』は我流で読んでいた。『大学』に出てくる「修身整家」「治国平天下」あるいは、儒教の「仁、義、礼、智、信、忠、孝、悌」について議論を交わした。

 「親たらずとも、子たらざるべからずや」。務めを果たさないような親であっても、子は孝行を尽くさなくていいのか。「おんちゃ(二、三男)たるものは助(す)けるもの」。農家の二、三男は兄、親を助けるもの。こうした、当時の倫理についても真剣に論じたという。2人とも農家の二男であった。

 ■人生語り合い散策
 エッセーにも出てくるが、藤沢さんとは散歩をよくしたという。山形市の沼の辺、盃山、馬見ケ崎沿い、薬師公園や霞城公園が散策のコースである。歩きながら、文学や人生について語り合った。「百姓の生まれなものだから、何もしないで歩く、という習慣がない。ぶらぶら歩く、というのは罪悪感があった」という小松さんだが、いつの間にか散歩が好きになって、一人でも歩くようになった。

 藤沢さん晩年のエピソードを1つ紹介しよう。全集が出たのは平成4年。小松さんに「全集を贈呈したい」という連絡があった。小松さんは、書店に既に予約しており、その旨を手紙で書いた。藤沢さんの返事は便箋(びんせん)12枚にも及ぶ、懇切丁寧なものだった。

 「押しつけがましく」と詫(わ)び、親しい人だから贈呈のリストから外すわけにいかない、こんなものが出たのかと眺めてもらえばよい、全集を出して後は隠居という挨拶がわり、全集は多かれ少なかれ「私の人生を集約したもの」、だからぜひ受けてほしい、などと書かれていた。結局、小松さんはその善意に甘んじ、もう一方の全集を松山町の中央公民館に寄贈している。

藤沢周平と庄内 ゆかりの人々

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