師範時代の同級生・小野寺茂三さん 未発表詩「死の準備者」

「親友という関係が出来上がるためには、さまざまな条件とか要因とかがかかわり合って来るものかも知れないが、そういうことを言うまえに、もっと肝要なことはウマが合うということではないかと私は思っている。私はどういうわけか茂三さんととてもウマが合った。」(『半生の記』)

 小菅留治(藤沢周平)さんと平田町出身の小野寺茂三さんは、山形師範1年の学生寮から2、3年の下宿生活まで一緒だった。生活をともにしたのである。いつも腹を空(す)かしていた。小菅さんの父親・繁蔵さんが米をかついでくることもあったが、他の下宿生も加えた皆で食べるので、あっという間になくなった。米が底をつくと、近くの豆腐屋からオカラをもらって来て食べた。そんな時代である。

 ■面倒見がいい先輩
 「謹厳実直で自分には厳しい人だった。他人には優しく、下級生の面倒もよく見ていた。同級生の私なども大変お世話になった」と小野寺さん。『半生の記』では、学校をサボってよく映画を見に行った、とあるが「私の印象では、小菅君はよく勉強をした。本を読む方もものすごかったが、ノートや原稿用紙に書き物をしている光景が思い出される」という。

 3年の頃、小菅さんは同人雑誌編集にかかわっている。「砕氷船」である。同人は、蒲生芳郎、小菅留治、小松康祐、土田茂範、那須五郎、丹羽秀和、松坂俊夫の7氏。小菅さんはエドガー・アラン・ポーについて書き、提出したと『半生の記』で述べている。この頃に書かれた詩の原稿が小野寺さんの手元に残っている。200字詰め原稿用紙十数枚で、詩は5、6篇。そのうちの1篇を紹介しよう。

「未だ完全に肉体に戻らざる精神の想念」
【死の準備者】
さあ
カーテンを引かう、
そして一人で灯を點さう
すでに日は暮れたのだ。
おお
何といふ青ざめた焰の色
然し部屋には穏やかな空気がみなぎる。

雨だ。
錆びた塗炭の屋根に、
雨樋ひに、
軒先の破れた空罐に、
裸の樹皮に、
あららかにつめたい雨が降る。
それは全く新しい響きで
懐かしく私の心を打ちひしぐ。

さあ
グラスに赤いポルトガル酒を注いで
ロッシーニを掛けよう
これでいい。
白い茉莉花は匂ってゐる

さて更けた。
雨はふりしきる。
可哀想に
棄て猫の遠い泣声も涸れて来た。
立て!
トランペット奏者。
我が運命のフィナーレを。

(原文のまま)

 「1948、11、24夜」という年月日がついている。「茉莉花」はインド原産のモクセイ科の花。

 「小菅君が書いて、その辺に置いていたのを私がしまっておいたのだと思う。詩はよく書いていた。私は同人ではないが、『砕氷船』と、その後に出た『プレリュウド』を持っている」と小野寺さん。2冊の同人雑誌は、今では黄色に変色している。

 ■「K子」という女性
 3年の頃、女性からとみられる小菅さん宛ての手紙が下宿先によく来た。封筒の裏には、アルファベットでK・□とあった。その□の部分がいまでは思い出せない、と小野寺さん。

 「大分分厚い手紙もあった。小菅君も手紙などを書いていた。多分、地元の人ではないかと思っていた。ほとんどプライバシーについては話をしなかったが、時折、それらしき人の存在については否定をしなかった」という。

 小菅さんは、「K子」を、詩によく登場させていた。「意中の人、という印象で、強く思っているように感じた。そうでなければ、詩の中であのように書けない」と小野寺さんは語る。

 「卒業近くなって、小菅君が『一人になって考えたい』と下宿を出ていった。それまでずっと一緒にいたので、私は少し不満を感じたが、小菅君は『君がイヤだとか、そんなんじゃない』と説明してくれた。女性のことがあったのではと後年、思ったりした」と、小野寺さんは胸の内を打ち明ける。藤沢さんの、青春の1ページだったに違いない。

藤沢周平と庄内 ゆかりの人々

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