連載企画

大人の発達障害

■悩みと希望と−県内のケース (1) 注意欠陥多動性障害
2008年01月20日 掲載
専門のコーナーを設ける書店も増えた。この店舗では「関心が高く、売り場を充実させる予定だ」という=山形市・八文字屋本店、写真と本文は直接関係ありません
専門のコーナーを設ける書店も増えた。この店舗では「関心が高く、売り場を充実させる予定だ」という=山形市・八文字屋本店、写真と本文は直接関係ありません
 ホームページ作成会社に勤務する今日子さん(41)=仮名=が、注意欠陥多動性障害(ADHD)だと分かったのは、35歳のとき。高校を卒業し社会に出てから、既に何度も挫折感を味わっていた。いくら努力しても、ほかの人のようにできない。「やっぱり障害だった…」。自分のせいじゃないと分かった安心感と、これが一生続くんだという悲しみが同時に去来した。

 「きょうのロスした時間、返して!」。就職した縫製会社で、今日子さんはいつもしかられた。袖やすそなど、パーツごとに4人1組で分担して1着の服を仕上げる仕事は、それぞれがバランスよく作業を進めなければならない。しかし、今日子さんは、ふと目についたこと、気になったことに注意が移り、そのバランスを壊してしまいがちだった。

 自分の担当をそっちのけで、隣の人の作業に手を出してしまう彼女に、同僚はきつい言葉を投げ付ける。「時間を返して」「どうしてちゃんとしないの」。今日子さんの中に悲しさやいら立ちが膨れ上がり、パニックが起こる。腕をはさみで切ったり、顔に油性ペンでバツ印を書いた。自分への「制裁」だった。

 精神的なつらさから体調を崩し、3年で辞めた。パン屋でパート勤務を始めたが、やはり器用にできなかった。前日に注意されたことも日々“リセット”され、なかなか覚えられない。焼き釜の係なのに、ぱっと気になったレジの仕事に集中してしまい、パンを焦がす。あいさつから包装、支払いまでセットで覚えたレジの仕事は、自分のルールにない「レシート要りません」という何げない一言にショックを受け、拳や頭を壁に打ち付けた。

 結局、約15年間、この2つの職場を何度も出たり入ったり、就職と退職を繰り返した。「努力すれば何とかなると頑張ってるのに、やっぱりだめで、毎日『ばか』と言われる。自尊心なんかなくなりますよ」。高い建物を見ると、自殺を考えるようになっていた。

 そんなとき、本に書かれたADHDの女性が、自分と似ていることにはっとし、福島県立医大で診断を受けた。異常に短気だった子ども時代、これまでの失敗、収入に見合わない高価すぎる買い物−。その「本当の原因」を、今日子さんはようやく知った。

 やりたかったHP作成の仕事に就いた今は、気分の落ち込みや集中力のコントロールを助ける薬を飲み、何でもメモしたノートを持ち歩き、失敗しないよう工夫と努力を重ねている。それでも彼女は、仕事の納期が遅れたり、相手の言動の意味を読めなかったりと、社会で生きることに困難を抱えている。15年ほど前に結婚し、主婦として家事もきちんとこなしたいが、家族でさえ不用意に後ろに立たれると、驚いて自室に逃げ込んでしまう。

 「誰にでもあるうっかりミスとは、分けて考えてほしいんです」と言い、多くの人に理解してほしいと思う。一方、社会人として生きる上で、この障害がすべての“言い訳”にはならない現実も知っている。「社会にもまれて、うまくいかなくて…。大人の発達障害者は、そのもやもやが解消できない」

 支援法の施行や特別支援教育の本格導入などを受け、発達障害に対する関心が高まっている。県教育委員会の調査(2006年)によると、県内で通常学級に通う小・中学生のうち、6.2%は特別な教育的支援が必要とされる。一方、学校での支援の仕組みが作られ始めた子どもに比べ、大人に関しては、実態把握も進まず、サポート体制が格段に弱いのが現状だ。社会で生きる大人の発達障害者は、どんな現実に直面し、悩み、希望を抱いているのか。県内のケースを報告する。

(報道部・烏美紀子)

【発達障害】 脳機能の発達に障害があり、認知や言葉、コミュニケーション、運動など特定の能力や技術の獲得に困難がある。その特徴の表れ方により自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などと分類される。知的な遅れを伴わない場合は一般に「軽度発達障害」と総称される。発達障害者支援法は2005年4月に施行された。
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