連載企画大人の発達障害■悩みと希望と−県内のケース (3) 自閉症
2008年01月22日 掲載
山形障害者職業センターのトレーニング。実際の企業に見立てた作業体験を通じ、就職しても困らないためのスキルを身に付ける=写真と本文は直接関係ありません
それから4年後、正和さん(33)=仮名=は自閉症と診断された。 歴史の年号や時刻表の暗記、漢字の書き取りはずぬけているのに、応用問題ができず、学校のテストでは30点を取ってきた。集団活動が苦手でテニス部には次第に参加しなくなった。「そんなんじゃ、世間で通用しないよ。逃げてばかりじゃ駄目だよ」。自閉症とは夢にも思わず、息子を一人前にしたいと思う母はしかり、一方、学校でつらい思いばかりの彼は理解されない不満を募らせた。「仕返ししてやる」。それが暴力だった。 多くの発達障害者がそうであるように、彼も職場を転々とした。仕事の向き不向きが極端で、手順を覚えるのに時間がかかる。何より人間関係をうまく築けなかった。役立たずのように扱われ、家では、母への暴力を自分でも止められなかった。「なんで辞めさせられるんだ。なんで駄目なんだ」。悩み疲れてやけを起こしていたころ、自閉症と分かった。 父も母もショックだったが「雲をつかむようなものだった正和への接し方が、分かるようになった」。今は、息子の障害と特性を受け入れている。親の安心は正和さんにも影響した。もう母を殴ることはない。 障害者の就労を支援する山形障害者職業センター(山形市)で受けた2カ月間のトレーニングについて話すとき、あまり感情を出さない正和さんの表情がぱっと明るくなる。来客へのお茶の出し方、接客の仕方、やるべき作業が分からなくなったときに「次はどうすればいいですか」と聞くこと−。当たり前のような「基本の基本」が、場の空気を読み、経験を応用させることの苦手な自閉症者には難しい。一つ一つを学び、失っていた自信を少し取り戻せた。 専門学校で学んだコンピューターの技能を生かす仕事を得て、正和さんは今、張り切っている。障害について知っている人は、職場の一部。周囲の無理解のために以前のように苦しむことも多い。発達障害は、外見や少し話しただけでは、障害があると分からないことが多い。「もう少し分かってもらいたいが、知られたくないとも思う。『普通じゃない』と見られるのは、やっぱり嫌な感じ」 両親の望みは、今はまだ“点”でしかない障害への理解が線や面に広がること。しかし、サラリーマン社会で生きてきた父はふっと目を伏せる。「効率化が求められる今の世の中で、それは可能だろうか」 学習やコミュニケーションなどに困難がある発達障害者は、仕事や職場の人間関係で失敗するなどし、繰り返し離職したり解雇されるケースが多い。県内では、山形障害者職業センターのほか、山形、酒田、長井の3カ所にある障害者就業・生活支援センターなどで、作業や対人関係のスキル習得、就職後のアドバイスといった具体的な支援を行っている。 発達障害は、障害者手帳の分類(身体・知的・精神)になく、手帳を持たない場合は、企業の障害者雇用率に反映されないため、就労に向けた取り組みが進みにくいという課題がある。発達障害者の中には、就職に有利になるよう、知的や精神障害の手帳を取得する人もいる。 大人の発達障害 記事一覧
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