連載企画大人の発達障害■悩みと希望と−県内のケース (5) 自閉症
2008年01月24日 掲載
印刷機械を操作し、てきぱきと仕事をこなしていく剛司さん
剛司さんが自閉症と診断されたのは2歳のとき。保育所で名前を呼ばれても反応しないなど、集団生活になじまなかった。言葉や知的発達にも遅れがある。今も、会話の中でインパクトの強い言葉を繰り返すなど、コミュニケーションには、困難を抱えている。 剛司さんは毎朝きっかり5時に起きる。自宅隣の印刷所への出勤、食事、就寝の時間もきっちり決まっている。習慣やルールに対する強いこだわりは、自閉症の特徴だ。生活や仕事上の欠点になることも多い。しかし、「それが長所になるんですよ」と達男さん。 印刷機械の調整具合で時折、小さなインキ汚れやずれが生じることがある。視覚情報に対する敏感さと、決まりへのこだわりを持つ剛司さんは、それを決して見逃さず、品質を維持している。ずれが生理的に不愉快なため、機械の調整にも人一倍気を配る。他人の誕生日をすっかり覚えているといった記憶力の良さは、仕事全般に発揮される。 そんな息子の仕事を見てきた達男さんが、抱いている目標がある。「発達障害者が、その特性を生かして働く場、彼らの最低賃金を保障できるだけの売り上げを確保するワークセンターをつくりたい」。埼玉県にある自閉症者らの福祉工場「けやきの郷(さと)やまびこ製作所」を見学し、一人一人が生き生きと働き、暮らすための収入をきちんと得ている姿に、達男さんは強い衝撃を受けた。 「いつまでも子どもを見ていられないという不安は、年を重ねるごとに大きくなる。発達障害の子を持つ親は『将来どうするのか』と問われると、言葉に詰まるんです」。昨春、センター建設を目指す団体を設立した。活動の趣旨や、支援ボランティアの募集を記したチラシを作ったが、ともに行動してくれる人はまだ少ない。 自閉症という言葉がほとんど知られていなかった20年前と比べ、ずいぶんと理解が進んだ。しかし、現実には差別や無理解がある。支援という言葉が、実質を伴わずに一人歩きしていたり、学校の教室の中だけで解決されようとしていると思うことがある。達男さんがワークセンターづくりを通じて目指すのは、自分のような親たちの経験を引き継いでいくこと。支援者の育成でもある。 達男さんは、口癖のように「自閉症を好きになってほしい」と言う。すべての出発点は、そこにしかないと思っているからだという。「ワークセンターを実現させるのは簡単じゃないけど、あきらめませんよ。なあ、剛司」。剛司さんが真っすぐに父を見つめた。 障害種別にかかわらず、障害者の就労や収入の現状は厳しい。「けやきの郷やまびこ製作所」では、16人の利用者が、輸送用木製パレットを製作し、平均7万4000円の月収を得ているという。伊得正則所長は「自閉症という障害があっても、環境さえ整えれば、自分で稼ぎ、責任を持って生きることができる。環境づくりへの支援が大事だ」と語っている。 (報道部・烏美紀子) =おわり 大人の発達障害 記事一覧
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