やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第2部・原点に立ち返る[8] DCをどう生かすか

2014/3/6 10:56
プレDCで新幹線に手を振って出迎える観光関係者ら。本番での成果が期待される=2013年8月、南陽市役所周辺

 女優吉永小百合さんが出演し、秋田県立美術館に展示されている世界的洋画家・藤田嗣治の巨大壁画を紹介したJRのテレビCM。秋田デスティネーションキャンペーン(DC、2013年10~12月)に合わせて放映された。リニューアルと重なった館内は連日全国からの鑑賞者であふれた。これがDCの宣伝効果だ。CMの集中放映や全国のJR主要駅への観光ポスター掲示など広告費は数億円ともいわれる。一地域だけではできない規模だ。

 多くの参拝者を集める式年遷宮や縁年にも通じる一大キャンペーンのDCが6月14日~9月13日、本県で行われる。JRは、旅行商品の造成や、新幹線料金の値引きにより各旅行会社がツアーを作りやすくするなどし、山形に観光客を送る態勢を整える。「山形の観光のステージを上げるきっかけにしてほしい」。JR東日本の原口宰常務は言う。

 本県の観光客数は前回DCの04年度に過去最高の4227万人を記録したが、その後減少している。目標は客数の増加だけではなく、滞在時間の延長や消費額の増加、新規観光ルートの開拓とさまざまある。さらに、原口常務は「DCを一過性のイベントではなく、成果を財産にしなければならない。それはリピーターをどうつくるかに尽きる」と力を込める。

 山形DCアドバイザーの矢ケ崎紀子首都大学東京特任准教授(観光学)も同様の考え方に立つ。「日本の観光施策の問題は、資金力が必要な全国向けのプロモーションとリピーター確保対策の役割分担がなされなかった点。前者はDCとして行われる。地元は、リピーターの確保と維持に力を注ぐべきだ」と指摘した。

JR東日本の営業・観光振興を担当する原口宰常務

 山形に来たことがない人に行きたいと思わせるのが「1番手」の魅力。来県してから見つけて感動できる魅力が「2番手」。矢ケ崎紀子首都大学東京特任准教授は、この二つを戦略的に配置する重要性を指摘する。

 1番手になり得る素材として挙げるのは蔵王やサクランボ。矢ケ崎准教授は、もう一つはほしいといい「可能性があるのは食。最先端、ほかにないこだわりなど特出する要素があって奥深いものがいい。知名度が上がっている『つや姫』など、認識されている情報に重ねて売っていくのが効果的」と続けた。

 2番手は、リピーターにつながる魅力だ。旅行者ニーズが多様化する中、それぞれが感動できるよう多彩な切り口で、地域に根差したものを用意すべきだとアドバイスする。芋煮会やラーメン文化、方言も候補になり得るとする。「地域の生活文化に触れ、人と交流し、心を動かされた時に旅行者はリピーターになる。山形の生活文化は入れば深いが、入らせる仕掛けが足りない。旅行者が見つけられるところに魅力をちりばめることが必要」

 ■旅行者の目線

山形DCのアドバイザーを務める首都大学東京の矢ケ崎紀子特任准教授

 満足度を高めるためには「旅行者目線のもてなし」も課題になる。宿泊者に「こちらの旅館もいいですよ」と同業者を紹介したり、自社とは別の地域の飲食店を教えたりするような対応が県内事業者らにできるかが、問われる。

 本県の観光振興を考えた場合、もう一つ課題になるのが、全県一丸となった取り組みだ。全国に目を向ければ、新幹線は2015年春に金沢まで、16年には函館まで延伸し、東北にとって強大なライバルになる。今回のデスティネーションキャンペーン(DC)は最大のチャンスであり、正念場だろう。原口宰JR東日本常務は「地理的に中央に位置する山形県の活性化が、東北の観光振興の鍵」と指摘する。

 ■広域観光拡充

 県内広域観光ルートでは、同社が羽黒山と慈恩寺を巡る旅など内陸と庄内を結ぶ周遊バスを複数コース運行する。他業者の企画を含め、旅行者の選択肢を増やすことが重要だ。原口常務は「山形県は海も山もあり、豊富な食、温泉、自然、歴史に裏打ちされた文化など全国と闘える素材は十分ある。あとは背景にある物語とともに見せていくことと、どう全体を動かす仕組みを構築し、継続していくかだ」と話す。

 全県的に各組織が団結するために、原口常務は旅館の女将らでつくる「やまがた女将会」(佐藤洋詩恵会長)の存在に注目する。「おそらく全国で唯一」の全県単位の女将会だとし、「これを基盤に一丸になる努力をしてみては」と続けた。

(第2部おわり)

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