やまがた観光復興元年

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やまがた観光復興元年

第8部・DC検証[2] 朝、夕、夜を楽しむ企画

2014/9/18 14:13
早朝のサクランボ収獲を楽しむ観光客。農家しか食べられないとされてきた特別感が受けた=7月、天童市・王将観光果樹園

 実が締まり、甘さを蓄えた早朝のサクランボが一番おいしい―。7月上旬、「農家の特権」とされてきたこの味を楽しむ観光客の姿があった。午前6時半の天童市の観光果樹園。さいたま市から訪れた会社員栗原昭一さん(53)夫妻は「甘くておいしいし、朝のすがすがしさもいい。早起きしてよかった」と真っ赤に熟した実を頬張った。

 「朝摘みサクランボ」と銘打った観光企画。今年6~9月の山形デスティネーションキャンペーン(DC)を見据え、JR東日本と県内各産地が協力して昨年度に商品化した。DC本番では、JR、大手旅行会社のツアーに加え、個人客に対応する園地もあった。県内全体の統計はないものの、多くの果樹園が「昨年より格段に参加者が増えた」と手応えを語った。

 県内最大級の施設の一つ、王将観光果樹園の場合、今季のサクランボ狩りの客数は全体で約2万人。うち朝摘みは約90人とまだ少ないが、昨シーズンの約2倍に増えた。「サクランボがおいしいだけでなく、観光客は日中の時間を有効活用でき、周遊する所も増える。農家にとっても農作業が早朝からで大変なことや、作物の価値に気付いてもらえる機会になる」。矢萩ひろみ専務(35)は言う。

 同じく受け入れ2年目になる上山市の高橋フルーツランド。高橋真也社長は、早朝は混雑していないため、農家と直接話しができる点も観光客に好評を得ていると分析する。サクランボ狩りができる地域は、首都圏に近い山梨県など各地に存在する。その中で朝摘みは他産地と差別化できる商品となり得る。高橋社長は「もっと多くの旅行会社に商品化してもらい、山形県のブランドとして売っていくべきだ」と力を込めた。

羽黒山五重塔のライトアップには連日、観光客が詰め掛けた。参道は参拝者が持つちょうちんの明かりで幻想的な雰囲気となった=鶴岡市

 鶴岡市の鈴木さくらんぼ園は「朝摘み」の魅力に、園地での朝食を加えたプランを今年初めて企画した。特別感が受け、募集した3日間は各日約20人が参加。朝摘みだけの場合は数人程度の日が多く、反応の良さを示した。

■宿泊につなげる

 3日間のうち2日は、地元のカフェとコーヒー店を園地に迎え、トーストにスクランブルエッグなどを添えた朝食とこだわりのコーヒーをサービス。参加者は自然の中で朝カフェも満喫した。園の企画担当の一人、宮城良太さん(36)は「非日常的な体験を提供したいと思った。準備は大変でも手応えがあった。来年もさまざまなチャレンジをしたい」と充実感をにじませた。

 今回の山形デスティネーションキャンペーン(DC)では、本県の朝、夕、夜の魅力を楽しむ事業が各地で用意された。早朝や夜のイベントなどが旅の目的になれば、経済効果の大きい宿泊につながる可能性が格段に高まる。

 夜の催しとして、各地で行われたのがライトアップ。善宝寺の五重塔(鶴岡市)、慈恩寺(寒河江市)や安久津八幡神社(高畠町)の三重塔、封人の家(最上町)、旧最上橋(大江町)、御所の水公園のハス(尾花沢市)、飯森山公園のアジサイ(酒田市)…。中でもにぎわったのは、国宝羽黒山五重塔(鶴岡市)のライトアップだ。

 山形DCと同じ6月14日~9月13日に行い、約1万1千人が訪れた。今年の庄内は鶴岡市立加茂水族館のリニューアルオープン(6月1日)、出羽三山の開祖とされる蜂子皇子(はちこのおうじ)尊像の初めての一般公開(4月29日~10月末)などが各観光地に追い風となった。しかし、それだけが好調の要因ではなかった。

■前年から準備

 「昨年のプレDCでライトアップを行ったため今年の実施を周知できた。その経験から一部を改善することもできた」。事業実施した庄内観光コンベンション協会の担当者は言う。昨年の好評を受け、五重塔前でのコンサートは3回から19回に拡大。参拝者が持つちょうちんが夜の参道に並ぶ幻想的な光景も受け、リピーターも多かったという。前年からの準備と行動が奏功した形だ。

 戸沢村で最上川舟下りを運航する最上峡芭蕉ライン観光は7、8月の土日に夕日を眺めながらの舟下りを初めて企画した。実際に運航されたのは3回にとどまったが、同社が見据えるのは来年以降だ。「DCの最大のメリットは全国に情報発信できること。夕方運航を認知してもらう狙いは達成できた。来年以降、内容を改良しながら旅行会社への営業を強化したい」。鈴木富士雄社長(63)は語った。DCは今後の誘客につなげるための挑戦の機会ともなった。

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