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第1部・翻弄(ほんろう)[2] 飼料用米増産

2014/1/16 10:06
農家と飼料業者らを結ぶ仕組みの一本化を求める安部清さん=米沢市関根

 全国有数の米どころで、飼料用米栽培の先進地でもある庄内地方。2004年度に25ヘクタールだった飼料用米の作付面積は12年度には1670ヘクタールまで増えた。04年度に遊佐町が「食料自給率向上特区」の認定を受け、生産者と養豚業者、消費者が連携して飼料用米生産に取り組んだことが、作付け拡大のきっかけとなった。

■手厚い補助金

 鶴岡市渡前の井上農場代表井上馨さん(61)も庄内地方で飼料用米栽培に取り組む一人だが、生産を始めたきっかけは少し違う。4年前、民主党政権が自給率向上を目的に、飼料用米や米粉用米など「新規需要米」に対する転作補助金を10アール当たり8万円と手厚くしたことが一番の理由だった。

 井上さんは「生産調整(減反)配分面積を達成するため、主食用米以外のどの作物に転作するか迷った。飼料用米であれば水田をそのまま使うことができ、しかも機械を買い替えずに済む。大豆などに比べてリスクが低かった」と振り返る。飼料用米の作付面積は現在1.3ヘクタール。転作補助金がなければ、とても採算が合わない状況だ。

 現政権は過剰傾向にある主食用米の価格下落を避けるため、飼料用米への転作補助金を14年度から、収量に応じて額が変わる数量払いにし、上限を10アール当たり10万5千円に引き上げる。農林水産省が見込む飼料用米の潜在需要は450万トン。現在の国内生産量は20万トン程度で、その20倍超という数字に懐疑的な見方も多い。種もみの確保、保管・流通コスト、主食用米への混入防止など課題は山積している。

■推移を見守る

 県は14年産の飼料用米生産を県全体で前年の1.9倍の3200ヘクタール、1万9千トンと見込む。飼料用米を増産するのか―。井上さんは「主食用米の価格がどのように推移するかを見守る必要がある。飼料用米の数量払いについても詳細が決まっておらず、判断できる状況にない」と話す。

 米沢市関根の農業安部清さん(57)は民主党政権が飼料用米の転作補助金増額を打ち出した際、作付けを希望した。だが「補助金を受けるために必要な契約先の畜産農家や飼料業者を見つけることができず、断念せざるを得なかった」。雪で覆われた田を見詰めながらつぶやいた。

 中山間地の約6ヘクタールで「つや姫」や「はえぬき」を栽培し、減反に応じ約3ヘクタールにソバなどを作付けしている。コメ政策の見直しによって、減反参加で受け取れる定額補助金はこれまでの約100万円から、14年度は約50万円に減る。昨年秋に政府が打ち出した飼料用米への助成強化は魅力的に映った。

■農地守る責任

 安部さんの前に再び立ちふさがったのは「契約」の壁。飼料用米の増産方針が明らかになっても、市やJAから情報提供はなかった。県畜産課によると、飼料用米を求める畜産農家などの情報は市町村と各JAが把握しており、生産希望者とマッチングしている。しかし生産量が多い庄内地方と比べて、他の地域では「情報や対応に差があるかもしれない」と説明する。市町村でマッチングできない場合は、各地の県総合支庁に生産希望の情報が送られる仕組みになっている。

 安部さんは昨年12月、仕事仲間から飼料業者を紹介してもらうことができた。今年は50アールで飼料用米を栽培するめどが立った。「過剰生産による米価下落を避けなければならないので減反に協力してきた。転作によって、耕作放棄地を出さずに中山間地の農地を守る責任もある」と自負する。だから言いたい。「どこに住んでいても作りたい人が作れるように、生産者と飼料業者などを結び付ける一本化した仕組みを、早期に確立すべきではないのか。そして最低10年間は政策を変えないでほしい」

(「やまがた農新時代」取材班)

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