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第1部・翻弄(ほんろう)[3] ソバ転作の行方(上)

2014/1/17 08:50
今年作付けするため種用に保存しているソバを手にする伊藤均さん=村山市岩野

 葉山(1461メートル)が裾野を広げる村山市の西部で、コメとソバなどを栽培する伊藤均さん(35)=同市岩野=は、農林水産省の担当者に聞いてみたいことがある。「彼らは、中山間地域の現実を分かっているのだろうか?」

■模索の一年に

 戸別所得補償制度がスタートして2年目の2011年度、ソバも「畑作物の直接支払い交付金」の対象となり、生産量45キロ当たり平均1万5200円が支給されるようになった。国が14年度から導入を予定している新たな制度では、飼料米への生産誘導を図る一方で、ソバへの交付条件が厳格化されるなど、ソバの栽培農家にとっては厳しい環境になる。

 「飼料米(への助成が)が良くなるといっても、すぐにソバから飼料米に転換できるとは限らない」。これが中山間地の現実だという。「中山間地の場合、圃場整備が進んでいない所が少なくない。農業機械が入れない圃場もある。岩が埋まっている圃場もあって、栽培できる品目が極めて限定される」。飼料米が作付けできる条件が整っている圃場ばかりではないからこそのソバ栽培だという。

 農政の大きな転換に対し、伊藤さんは「チャンスなのかピンチなのか、それも判断できない」でいる。「当面は様子を見るしかない」。伊藤さんにとって今年は、模索の一年になる。

■互助制度導入

 村山市の大高根地区は「そばの里」として知られ、ソバの花が満開になる9月になると「そば花まつり」が開かれる。この地域では、かつて約480あった農業世帯数が約280世帯にまで減少した。しかし、耕作面積は約480ヘクタールを維持し続けている。そば花まつりの実行委員長を務めるJAみちのく村山の理事水沢正敏さん(63)=同市富並=は「戸数は減っても、耕作放棄地はほとんどない」と胸を張った。

 この地域では、減反政策が始まって間もない時期、「転作委員会」を組織化し、減反割当を加入世帯間でローテーションする独自の互助制度を導入した。このシステムは、耕作放棄地の発生を防ぐ機能も果たしてきた。現在は、ほぼ全ての農業世帯約280戸が加わっている。転作作物として次第にソバの栽培が拡大し、イベントの展開などと連動しながら「そばの里」としての認知度が定着した。

■右肩上がりも

 水沢さんは「現行の助成制度があるから(ソバ栽培を)やっていける」と話し、「転作委員会のメンバー自体が高齢化している。このシステムを維持するのも今が限度」という。「この制度が機能しなくなった時、耕作放棄が一気に増え、地域の崩壊にもつながりかねない。5年後に、どうなっているのか…。誰にも分からない」。水沢さんは、地域の将来を懸念する。

 本県のソバの作付面積は、北海道に次ぐ全国2位。10年に4110ヘクタールだったものが、交付金対象品目にソバが追加された11年になると4670ヘクタールに増え、12年には4960ヘクタールと右肩上がりだ。新たな制度に機敏に対応できる十分な“体力”が、この全ての産地や農業世帯に残っていれば懸念も生まれないだろうが、そうとは限らない。

(「やまがた農新時代」取材班)

ソバへの助成制度の主な変更点 現行の「畑作物の直接支払い交付金」では、生産量45キロ当たり1~3等と規格外・未検査の四つの品質区分に応じて助成金(数量払い)が支払われていたが、2014年産は「未検査品」が助成対象から外れ、翌15年産からは「規格外品」も除外される予定。各等級の助成額も減り、見直し後の平均助成単価が、2170円減額される。前年の作付け実績に基づき、その内金として交付される面積払い(最低交付額)も、10アール当たり2万円から1万3000円になる。10アール当たり2万円が給付されていた水田活用の直接支払い交付金(転作補助金)は、助成内容が市町村の裁量に委ねられる産地交付金に移行する。

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