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やまがた農新時代

第1部・翻弄(ほんろう)[4] ソバ転作の行方(下)

2014/1/18 09:55
もがみグリーンファームが耕作放棄地を活用して作付けしたソバ畑=2013年9月、最上町(大場組提供)

 近年、町を挙げてソバ栽培に取り組み、注目を集める最上町。建設業の地元大手大場組(大場利秋社長)は2008年、農業生産法人もがみグリーンファームを創業、株式会社の運営形態で、ソバの作業受託を含む農業事業を展開している。先駆的な取り組みが評価され、昨年12月には、最上農業賞を受けた。大場組の担当役員菅欣也企画開発部長(55)は、民主党政権が導入した戸別所得補償制度(現・経営所得安定対策)について「真に農家のためになったのだろうか」という疑問を払拭(ふっしょく)できないでいる。

■「貸し剥がし」

 ソバは11年度、この制度の「畑作物の直接支払い交付金」の対象に追加された。収量や作付面積に応じた一定の助成が見込めるようになると「農地の貸し剥がし」が起こったという。いったん他人に委託していた農地を戻し、助成目当てに自らソバを栽培する「農地の貸し剥がし」は「土地を集約し、大規模経営を志向する高い志を持った農家の意欲をそいだ」と振り返る。「(交付金という形で)収入が増えたのだから、経営を安定させる上では農家のためになったのだろう。一方で、大局的、長期的に将来の地域農業を考えた場合、果たして本当にいいことだったのか」

 現政権は方針を転換し、14年度から助成対象が厳格化され、交付金額も減る。その弊害として「やる気が低下する生産者を生む」とも指摘した。ソバは雨に弱く、その年の天候に収量が大きく左右される。交付金の支給が、収量変動を補完するセーフティーネットとなり、栽培意欲を下支えしてきたが、新たな制度下では、その網の目が粗くなるからだ。

 しかし菅さんは、新たな制度を悲観的には受け止めていない。「ソバの栽培面積は減るだろうが、安定した価格が戻ってくるだろう」。ここ数年、大幅な下落傾向が続くソバの取引価格が再び上昇し、生産者の収入が安定することに期待を寄せる。

 交付金の対象品目にソバが追加されてから、全国的に作付けが拡大。国産ソバの供給過剰が続き、取引価格の下落を招いた。45キロ当たり1万数千円だったものが、その半値以下の状況が続いている。業者から千円を下回る価格を提示された産地もあったという。交付金は、単価の下落分を穴埋めし、生産者の収入の減少を補う色彩を強めていった。菅さんは、交付金への依存ではなく、ソバ単価が適正価格に戻ることを念頭に打開策を探っている。

■品質、追求する

 製粉業の地元大手宮川製粉(寒河江市)の宮川洋一社長(65)は、新たな制度に対して肯定的だ。生産者のソバ栽培への意識を、一層高めるきっかけとなることを期待しているからだ。

 「食料難だった時代、コメが育たない痩せた土地にソバを植えた。今も、その感覚が残っている生産者が散見される」と述べ、「ソバは痩せた土地でも育つ―という認識から抜け出し、品質をこれまで以上に追求しようという姿勢が必要になってくると思う」と強調する。

■文化の昇華を

 ソバは転作作物の一品目。だが、本県にとっては重要な観光資源の一つでもある。北村山地方のあるそば打ち職人は、こう考えている。「山形にとって、そばは文化。その文化を、さらに昇華させるために大切なことは、そばを打ってお客さまに提供する店、その店にそば粉を供給する製粉会社、その製粉会社にソバを納める生産者の三者が、そばに対して、一層真剣に向き合い続けることだと思う」

(「やまがた農新時代」取材班)

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