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第1部・翻弄(ほんろう)[6] TPP養豚への影響

2014/1/20 08:54
関税が撤廃された場合、ダメージが予想される養豚業。豚舎では生まれたばかりの子豚が母豚の乳を懸命に飲んでいた=朝日町宮宿

 朝日町の山間部で養豚を営み、年間約1200頭を出荷している布施正美さん(65)はこの道50年以上。親豚60頭を保有し、繁殖から肥育まで一貫経営している。「TPP(環太平洋連携協定)への参加で豚肉の関税が撤廃され、国からの補助もなければ、辞めざるを得ないのではないか」と危機感を抱く。脱サラした長男正徳さん(36)が家業を継いで5年。先行きが暗い中で「親としてこれから何ができるか」と息子の将来を案じる。

 3年前まで銘柄豚を肥育していたが、採算が取れずやめた。肥育期間が通常より1カ月長く、その分の餌代がかかりすぎて売れ行きも鈍ったからだ。銘柄豚と一般豚の2種類を飼うこともできるが、狭い豚舎では管理が難しい。

■不安定な相場

 TPP交渉には12カ国が参加している。日本はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5項目の関税維持を譲らず、原則全て撤廃を掲げる各国と折り合っていない。農林水産省はTPP交渉で関税が撤廃された場合、「銘柄豚以外は外国産に置き換わり、銘柄豚肉も価格が下がる」と影響を予測。しかも銘柄豚は消費者の流行に左右されやすく、正美さんは米国などから安い豚肉が入ってきたら太刀打ちできないとみている。

 国産豚肉の価格は季節変動が大きく、安定しない。枝肉の相場は1キロ当たり460円を切ると採算割れが懸念される。生産原価基準の差額分を補填(ほてん)する補助制度があるが、これがなければ経営が成り立たない。正美さんは「売り上げの約6割は餌代に消えていく。10年前は1トン3万円だったが、円安やトウモロコシの価格上昇などで現在は1万円以上高くなっている」と話す。餌の高騰は収益を圧迫し、ふん尿処理や病気を防ぐワクチンや薬品代の費用もかさむ。

 2人は「今後予想される単価下落に対抗していくには、一定の肥育規模を確保するしかない」と語る。しかし豚舎の増設は臭いの問題で周辺住民の理解が得られず、難しい。「親豚を100頭まで増やせば何とか利益は出ると考えている。豚舎の作業効率を上げながら、地域での売り上げを増やし、確実に商売するしか生き残る道はない」と厳しい将来を見据える。

■銘柄豚も不安

 規模拡大や生産効率化で経営改善を進めてきた養豚農家にとっても、TPPに対する不安は同じだ。庄内地方で銘柄豚を肥育する男性(65)は「今は妻と息子と3人で力を合わせて何とか利益を挙げているが、安い豚肉が大量に輸入されたらどうなるか分からない。何としても関税を維持してほしい」と語る。

 男性が生産するのは、庄内のJAグループが確立したブランド豚「高品質庄内豚」。コレステロール値が一般の豚より約20%低く人気が高い。TPP影響予測では、銘柄豚は“生き残る”といわれているが、経営は安定しているとは言い難い。「飼料高騰や販売価格の低迷に見舞われた2011年は赤字だった」

 安い欧米の豚肉が輸入された場合、価格競争を挑むのは難しい。生産規模が違い過ぎる。男性は「各農家がきめ細かな管理に努め、味と質で消費者の期待に応えていくしかない。母豚当たりの生産頭数を増やし、子豚が事故死する割合を減らすなど技術力向上も欠かせない」とする。

■自給率50%超

 豚肉の国内自給率は重量ベースで53%(12年度概算)と、何とか過半数を維持している。消費者が安い輸入豚肉を求める気持ちも分かる。しかし「自分たちの食べ物を自分たちで賄う力を手放してはいけない。必要な食料を確保することは、国の安全保障上、最優先されるべき課題ではないか。消費者にも一緒に考え、支えてほしい」。高齢化や後継者不足で生産者数が減り続けている養豚業界への理解を求めた。(「やまがた農新時代」取材班)

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