やまがた農新時代

第1部・翻弄(ほんろう)[8] 米沢牛生産者の試練

2014年01月22日
底冷えのする牛舎で、牛たちの健康状態を確かめながら飼料を与える森谷さん親子=米沢市六郷町西藤泉
底冷えのする牛舎で、牛たちの健康状態を確かめながら飼料を与える森谷さん親子=米沢市六郷町西藤泉
 今月9日午後、米沢市食肉センターで行われた初競り。枝肉が並ぶ冷蔵庫の中に、前JA山形おきたま米沢牛振興部会長の森谷英一さん(60)=同市六郷町西藤泉=の姿があった。自らが出荷した米沢牛も含め、枝肉一つ一つをチェックしていた厳しい目が和らいだ。「全体的に良い出来じゃないかな」

 「日本三大和牛」に位置付けられ、本県産品のトップブランドでもある米沢牛の生産者らは、数々の“障害”に立ち向かい、乗り越えてきた。「どこにも負けない品質を」という高い意識と誇りがブランドをつくり上げてきた。

■ブランド確立
 最高級和牛の格付けを築いてきたのは、置賜8市町と農協、生産者で構成する米沢牛銘柄推進協議会を中心にした取り組みだ。自ら厳しい定義を設け、繁殖や肥育にこだわり、高い評価を受けたものだけに米沢牛のブランドが与えられる。「米沢牛の名前は昔からあったが、本当のブランドになったのは最近ですよ」と森谷さんは言う。

 バブル景気真っ盛りの1985(昭和60)年ごろから、枝肉ブランドが高い評価を受けるようになった。米沢牛の関係者もその動きに反応した。出荷は生体中心だったが、88(同63)年7月、初めて枝肉を東京食肉市場に出荷した。評価は上々。他産地の枝肉は1キロ2千円ほどだったが、米沢牛には4千円以上の値が付いた。「自信はあったが、良い結果が出て本当にうれしかった」と振り返る森谷さん。米沢牛のターニングポイントとなった。

■安全安心強調
 着実にブランド力を上げていた米沢牛に、最初に立ちはだかったのが91年の牛肉輸入自由化だ。当時、生産者の間では、どんな肉が輸入されるか分からず、大きな不安が広がった。まだ、外国産牛肉が県内で扱われていなかった時期。農協の担当者らと東京で購入し、実際に食べ確信したという。「不安はあるが、自分たちの和牛とは競合しない」。その言葉通り、最高級ブランドの米沢牛に影響が及ぶことはなかった。

 狂牛病問題も、県を挙げた全頭検査など安全安心を強調した対策と、品質を落とさないという生産者たちの意地で乗り切った。

 最も森谷さんを苦しめたのは、3年前の福島第1原発事故による風評被害だ。隣県で発生した原発事故による放射能の恐怖は、ブランド牛にも襲いかかった。輪をかけるような長引く景気低迷に、枝肉の価格は落ち込んだ。「相手は目に見えない放射能。自分たちも不安だったが、消費者に安全な牛肉を提供したい一心で頑張ってきた」と話す。放射性物質検査の全頭適用を継続した結果、消費者に理解が広がり、価格も事故前の水準に戻ってきた。

 しかし、新たな不安が出てきた。環太平洋連携協定(TPP)交渉問題。森谷さんは明確に反対の立場を取る。関税が撤廃された牛肉が米国や豪州などから入ってきた場合を考え、20年以上前の輸入自由化との違いを指摘する。現在、日本から輸出された和牛の子孫が、海外で繁殖し飼育されている。これまでの外国産牛肉と違い、品質は国産和牛に近いという。「価格の安い“外国産和牛”が逆輸入されれば、どんな影響が出てくるか分からない」。森谷さんの表情が曇った。

■将来見据える
 初競りを終え、自宅に戻り長男の章暢さん(29)と牛舎へ向かった森谷さん。底冷えのする中、黙々とわらや餌を配りながら、約60頭の牛たちの健康状態を確認する。「若い後継者たちが米沢牛に誇りを持ち、続けていけるように踏ん張らなければ」。その目は喫緊の問題だけでなく、将来を見据えていた。

(「やまがた農新時代」取材班)
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