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第1部・翻弄(ほんろう)[9] 識者に聞く(上)-新潟大農学部・青柳斉教授

2014/1/23 07:53
「主食用米の過剰作付け解消のためには、転作補助金の水準をより上げる必要がある」と語る青柳斉教授=新潟市・新潟大

 政府が決定したコメ政策見直しの大きなポイントの一つは、生産調整(減反)参加農家への定額補助金(10アール当たり1万5千円)の削減だ。2014年産から半減、18年産からは廃止される。新潟大農学部の青柳斉教授(農業経済学、新庄市出身)は「小規模農家より、3~5ヘクタールで主食用米を栽培する中規模な農家や、それ以上の大規模農家の方が大きな影響を受ける」と指摘する。経営規模に比例して、削減幅が大きくなるからだ。

■目標数量は必要

 本県の稲作農家は約3万戸。農家数を作付け規模別でみると、3ヘクタール未満は84%で、3ヘクタール以上は16%にとどまる。一方、全体の面積のうち3ヘクタール未満の農家による作付けは48%、3ヘクタール以上の農家の作付面積は52%と過半数を占める。「中規模以上の水田経営に対する支援をより強化すべきだ」と提案する。

 国は主食用米からの転作を誘導してきたが、主食用米の過剰傾向は解消されず、米価は低迷。青柳教授は原因を「転作を促す補助金がまだまだ少ないからだ」と考える。主食用米の目標数量を決めた上で、転作作物への助成水準を高めれば、米価は1俵(60キロ)1万4千円台半ばで均衡するとみている。

 ただコメ政策見直しには「18年度をめどに、国が目標数量を示さなくても生産者や農協が需要に応じて生産できるようにする」とする“減反廃止”も含まれている。青柳教授は「目標数量を示さずに生産調整ができるはずはない。需給バランスが崩れ、価格が不安定になる」と警鐘を鳴らす。

■まず圃場整備

 飼料用米への転作誘導強化にも厳しい見方だ。飼料用米価格が低すぎ、上限の補助金を得られても「作るメリットは少ない」。多収性の飼料用専用品種を栽培すれば、主食用米への混入防止策が必要で、乾燥・貯蔵施設(カントリーエレベーター)や保管場所の新設も迫られる。「飼料用米が必要ならば、ミニマムアクセス(最低輸入量)米や、備蓄米を転用した方がいい」と断言。「飼料用作物を栽培するならばホールクロップサイレージ(稲発酵粗飼料)。青刈りでき、乾燥費など生産コストを大幅削減できる」と続ける。

 取り組むべき水田政策としては、真っ先に圃場整備を挙げる。理想は1区画1ヘクタールで、最低でも50アール。さらに、パイプライン化し、田畑輪換(りんかん)を可能にすれば、生産性が高い経営が実現できる。「コメ政策見直しで評価できるとすれば、農地集約に基盤整備事業がセットされている点。じかまき技術の確立も作業効率化の面で重要」とする。

■好機拡大は幻想

 環太平洋連携協定(TPP)には「セーフティーネットがアメリカの制度に近いものに変えられてしまう」として反対。コメ、牛・豚肉、乳製品など農産物の重要5項目の関税維持は「何らかの妥協が強いられるだろう」と見通す。

 関税撤廃で日本の農産物輸出のチャンスが増えるという論調もあるが「コメに関しては、過大な幻想だ」と言い切る。TPP交渉に参加してはいないが、中国は黒竜江省だけで日本の年間生産量の倍の1600万トンのジャポニカ米を作っている。「中国が過剰在庫を放出すれば、価格、量とも日本のコメは太刀打ちできない」。一方で有望な輸出先にロシアを挙げ「資源開発で景気が良い。日本のイチゴやモモ、ナシなどの果実、花は品質が良く、中国産とも戦える」と話す。

 強い農業に求められる要素は―。青柳教授は「一年を通して収入を得られる複合経営と、生産から加工、販売までを手掛ける多角化だ。経営感覚を持った人材の育成に力を入れなければならない」と語った。

(「やまがた農新時代」取材班)

◆あおやぎ・ひとし氏は京大大学院博士課程修了。1985年に新潟大農学部助手。助教授を経て98年から現職。新庄市出身。59歳。

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