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やまがた農新時代

第1部・翻弄(ほんろう)[10] 識者に聞く(下)-山形大農学部・小沢亙教授

2014/1/24 10:52
「農家が主体的に将来ビジョンを描かなければ地域は守れない」と語る小沢亙教授=鶴岡市・山形大農学部

 コメの生産調整(減反)廃止に向けた政府の動きについて、山形大農学部の小沢亙教授(農業経済学)は「大きな変化とは受け止めていない」と言い切る。政権交代前の自民党政権が示した「米政策改革大綱」で既に、2004年から6年の経過措置を経て減反を廃止するという流れがあったからだ。民主党が政権を握ったことで方向性が変わったが、結果的に時期が遅れただけにすぎない。減反廃止は既定路線と映る。

■転作効果に疑問

 減反を評価しないわけではない。主食であるコメの生産、消費のバランスをうまく取った。1970~80年ごろは過剰な生産を調整する意味合いもあったが、その後のコメ消費の著しい減退が状況を変えていく。小沢教授は「国はコメに代わる作物を育てるメリットを農家に示す必要があったが、これまで準備してこなかったのが問題」と指摘する。

 飼料用米への転作誘導は理解できる。コメ作りの担い手は兼業が増え、週末や連休のみの作業で生産できる設備が整っている。コメ以外の作物に転換できる環境にはない。だが、国が期待するような成果を挙げるかは疑問符が付く。飼料用生産は収量に応じて助成額が変わる成果主義を掲げるが、「収量を追い求めることになれば品質重視の主食用と比べ作業内容、日程が違ってくる。同じコメだからといって、そううまくいくとは思えない」。

 減反廃止で現場が最も危惧するのが主食用の価格下落。小沢教授は「心配するほど下落するとは思わない。影響は短期的であり、変動は緩やかではないか」とみる。1カ月で平均30万円支出する3人家族がコメ代に充てる金額は、2400円程度という家計調査結果を引き合いに「毎月のコメ代が家計に占める割合はわずか。仮に半値になっても家計への影響は小さい。安いコメに最初は飛び付くだろうが、消費者は自然と上質なコメを求めるだろう」と説明する。

■TPPへ戦略を

 日本農業にとって脅威と映る環太平洋連携協定(TPP)については「日本の農業だけを考えれば反対。だが国益を考えて判断しなければならない」。その上で「良質の国産農産物は輸入品と共存できるのではないか。TPPがあっても日本農業は残らなければならない」と強調。そのための戦略、ロードマップ(行程表)を示すことが急務だと続ける。

 課題が山積する日本の農業だが、明るい展望が見えてくるだろうか。小沢教授は「農家の主体性」をキーワードに挙げる。「これまでの農政は農家の主体性を重視してこなかった。人を大事にしてこなかった」との思いが背景にある。猫の目のようにくるくる変化する農政に対し、翻弄(ほんろう)され続ける農家、という図式がすっかり定着した。

■地域のため行動

 山形の農業がいかにして競争を勝ち抜き、発展することができるか。「個人でなく地域で将来のビジョンを描くことが大事。当然、リスクも伴うだろう。例えば、土地利用は個人のエゴでなく地域のためを考え行動し、意欲ある担い手が就農できるステージを整えることも必要ではないか」。国は18年度に減反を廃止する。残された時間はそう多くはない。

(「やまがた農新時代」取材班)

=第1部おわり

 おざわ・わたる氏は帯広畜産大大学院修了。1988年に秋田県立農業短期大講師。95年に山形大助教授となり2007年から現職。岩手県奥州市出身。56歳。

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