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やまがた農新時代

第2部・冬と雪(1) 新規就農者の模索

2014/3/16 12:32
「山形の冬でもできる農業はある」と語る山川正信さん=14日、大江町荻野

 18年前に脱サラ、野菜農家を始めた山川正信さん(49)=大江町左沢、神奈川県鎌倉市出身=が冬季間、ホウレンソウを栽培しているハウスは町中心部から車で5分ほど、月布川に近い場所にある。周囲は雪に覆われ、ハウスとハウスの間には腰の高さまで雪が積もっていた。豪雪でハウスがつぶれた時もある。「冬の農業は雪との戦いだ」と、辺りを見渡した。

 関東地方のレストランチェーン店で土日も休みなく働いた。今後の人生を考えるうちに農業をしたいと思うようになり、31歳の時、母親が戦時中に疎開していた大江町に妻、子どもと移り住んだ。

 農林業センサスによると年間売り上げが300万円未満の県内の農家数は全体の約7割に上る。冬は別の仕事をしている農家は少なくない。山川さんも就農当初、冬はアルバイトをした。水道工事の現場で働いたが「冬道の運転はままならないし、大型トラックも運転できない。何もできず申し訳なかった」。除雪のアルバイトをしても、自分のハウスの雪下ろしができず、手取りは天候に左右される。「結局、安定した収入を得るためには冬も農業をやるしかないと思った」

 間もなく4月を迎える県内。しかし各地の田畑は、いまだ雪に覆われている。農業所得の底上げを図り、次世代につながる産業にする手段の一つに「冬の農業」がある。本県の農家はどのように、冬や雪と向き合えばいいのか。「やまがた農新時代」第2部では「克雪」「利雪」の取り組みを通して、冬の農業の可能性を考える。

 山川正信さんは移り住んだ大江町で、今は4~10月にトマト、11~3月はホウレンソウを栽培している。ホウレンソウを選んだ理由を「野菜は消費が安定しており、他の作物より冬場の管理の手間が少ない。それほど高い技術も必要ない」と説明する。ハウスは無加温で暖房費もかからず、寒いため虫も出ない。アスパラガスなどと違い、除雪作業で若干収穫が遅れても出荷に影響が出ないという。

 ただ強調するのは「必ずしも全員が冬の農業をしなくてもいい」ということ。家族構成やライフスタイル、目指す農業、土地や家族など有形無形の財産によって、選択できる営農の形は異なる。「自分は施設の借金もあるし、冬に働かなくてはいけないだけ」と笑う。

 ハウス内では、黙々とホウレンソウの袋詰めをする若い農業研修生たちの姿があった。彼らの作業を見守りながら山川さんは続けた。「確かに雪は大変だが、ハウスの建て方や作物の選び方を考えることで、冬の農業は可能だ」

冬季間は剪定のアルバイトをしている内海秀晃さん。スモモ畑は雪に覆われ、春を待ちわびている=寒河江市中郷

■果樹栽培に力

 就農3年目でサクランボ、スモモなどの無農薬栽培に取り組んでいる内海秀晃さん(38)=大江町左沢。冬の農業は考えていないが、今年の冬は「厳しい」と実感する。千平方メートル当たりおよそ500キロほど取れるはずのサクランボが、昨年は2千平方メートルの土地からわずか20キロ。実が腐れてしまう病気が原因で、ほぼ全滅状態だったからだ。生活費を確保するため、そして勉強のため、果樹剪定(せんてい)のアルバイトをしている。

 内海さんは東京都出身。父親の仕事の都合で、幼児期から高校1年まで山形市内で過ごした。青年海外協力隊員として、2年間エジプトで働いたこともある。農業に興味を持ち、2007年に山形に戻り、その後大江町で就農した。「果樹のシーズン中に稼いで、冬場はお金の心配をせず、楽しく園地の剪定ができればいい」という理想と、思うような収穫、収入が得られていない現実。農機具を買うにも、アルバイト代と青年就農給付金が頼り。それでも「自分の目指す農業を追い求めたい」。熱い思いを胸に、内海さんは果樹畑で白い息を吐いた。

■同志にエール

 大江町で就農希望者を支援し、農業研修生を受け入れている「OSIN(おしん)の会」代表の渡辺誠一さん(48)は「安定したお金を得られるようになるまでには時間がかかる。農業も、他の仕事と同じように甘くはない」と、新規就農の難しさを指摘する。一方で「冬でもハウスで農業ができ、本人のやる気次第で何でもできる。やりたい人がいれば後押しする」。まだ見ぬ“同志”にエールを送った。

(「やまがた農新時代」取材班)

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