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第2部・冬と雪(2) 豪雪地帯の園芸農業

2014/3/17 12:15
ビニールハウスの周囲に絶えず水を張る消雪システムを整備、冬場の農業を可能にした=最上町若宮

 雪の重さは侮れない。一般的に1メートルの積雪なら、1平方メートル当たりの重量は300キロを超えるという。冬場にビニールハウスで作物を栽培する農家にとって、頭の痛い存在だ。特に豪雪地帯では積雪に耐えられる丈夫で割高な鋼材を使う必要があり、屋根から落ちた雪の撤去にも労力を費やさなければならない。「雪が少ない地域と比べ、大きなハンディだ」。新庄最上地域のある農家がつぶやいた。

■かさむ除雪費

 県内でも有数の豪雪地帯として知られる真室川町。冬場にハウス内で栽培されるタラノメは、全国的に有名だ。約10年前から栽培に取り組んでいる小野茂美さん(72)=大沢=は「積雪による倒壊を防ぐため、ハウス周囲の除雪は欠かせない」と話す。一般的なビニールハウスは形状が半円のため屋根に積もることはないが、両脇に落ちた雪が骨組みを圧迫し、倒壊を引き起こす恐れがある。

 除雪機を使うが、軽油代が経営を圧迫する。小野さんは「一冬でドラム缶(200リットル)1本半は使う。うちはハウス1棟だけだが、何棟もある農家は大変だ」と実感を込める。新庄最上地域で大規模なハウス園芸農業が浸透しない理由の一つに、除雪の手間と経費が重くのしかかっている。

ビニールハウスの屋根間のくぼみに積もった雪を溶かすスプリンクラー=最上町満沢

■「連棟」に活路

 雪深い地のハウス栽培に可能性はないのだろうか。その問いに対する答えを出そうと、新庄市や最上町などの農家が挑んでいるのが、地下水を生かした消雪だ。

 最上町満沢で3年前から農業に取り組む「いとうぐみ」(伊藤譲社長)は、計13棟(約4620平方メートル)のハウスで4~12月にかけて大玉トマトを栽培している。ポイントはハウスが「連棟」なことだ。伊藤崇志取締役農場長(44)は「幅8メートルのハウスを連ねて設置することで、広いスペースを確保できた」と話す。

 効率的な一方で、ハウスとハウスの接続面の屋根にくぼみが生じ、雪がたまりやすい構造的な問題を抱えている。これに対処するため、くぼみにスプリンクラーを設け、地下水をくみ上げて散水し、雪を溶かすシステムを導入した。

 一連の消雪システム整備費に約600万円を投じた。維持費は年間30万~40万円という。雪が少ない地域で同様のハウスを整備する場合、消雪システムは必要ない。豪雪地帯のハウス栽培は、それだけ農家に負担を強いることになるが、伊藤農場長は「豪雪地帯でも『規模の農業』ができる道が開けたと思う。将来的な可能性はあると考える」と展望する。

■ハンディ克服

 同じく同町若宮のビニールハウス1棟でリーフレタスを水耕栽培している中嶌聡さん(44)は2012年、地下水を利用しハウスの周囲に絶えず水を張る消雪システムを整備することで、冬場の農業を可能にした。井戸の掘削、ポンプ整備など初期投資費は約200万円。一冬のコストは4、5万円という。中嶌さんは「大雪となれば、除雪だけで一日の仕事が終わってしまうことを考えれば、必要な投資だった」と話す。

 農業の担い手不足が深刻化している中、新たな発想で農業に可能性を見いだそうとしている若者は少なくない。だが、気象や地理的にハンディを持った場所では、条件のいい地域の農産物と勝負するための設備投資は避けられない。だからこそ2人は強調する。「同じ土俵で戦うために行政の支援は不可欠だ」

(「やまがた農新時代」取材班)

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