やまがた農新時代

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第2部・冬と雪(5) 最上のフキノトウ

2014/3/20 09:01
来シーズンの収穫に向け、フキノトウ「春音」の育苗作業が進む=真室川町大沢

 早春、雪解けを待って野山に顔を出す山菜・フキノトウ。雪国山形にあって、春の足音が最も遠くから聞こえてくる最上地域で、フキノトウ「春音」の産地化に向けた取り組みが始まっている。

■天然物を採取

 新庄市の県最上総合支庁産地研究室。地域特性を生かした産地形成を進めるため、県が県内4地域ごとに設置する研究機関の一つだ。同研究室の結城和博室長(54)は「県内で最も雪が多い最上地域で果樹栽培は難しいが、豊富な山菜を伸ばす手がある」と強調する。季節感を先取りする山菜の促成栽培で、生産者の経営安定はもとより産地全体のブランド力強化を見据える。

 同研究室はタラノメ、ウルイに続く促成山菜の有望株としてフキノトウに着目。1998年に採取調査に乗り出したが思うような成果は得られず、2004年に仕切り直しで再調査した。研究員が最上地域の里山をつぶさに歩き、色合い、実の膨らみ具合に優れ、商品価値が高い天然物を探し回った。04~06年にかけて集め、研究室敷地内で養成した37種のうち、最も評価が高かったのが春音と名付けられ、11年度から生産者への種苗配布が始まった。

 春音を見いだした岡部和広主任専門研究員(43)に採取地を尋ねると「最上地域の北部です」。それを聞いた結城室長が「同僚にもこれ以上教えないんだ」と話し、互いに笑顔を見せた。

■納得の市場評価

 生産農家は2月中旬をめどに親株の根を6センチほどの長さに切り分け、ハウス内で育てる。育った苗は田植え作業の前後に畑に定植。夏場の病害虫防除、雑草取りを経て、雪が降る前に掘り起こす。あとはいつでも取り出せるよう外に置いておく。1月以降の出荷計画に沿って加温ハウスで促成する。

 真室川町大沢の佐藤弥一郎さん(76)は、妻のマキ子さん(74)と二人三脚で春音を育てる。4ヘクタールの水田を手掛けるコメ農家だが、冬場の収入源としてハウス2棟でウルイ、フキノトウを栽培する。「タラノメを育てていたが連作障害があって、フキノトウに切り替えた」と弥一郎さん。今シーズンは既に収穫、出荷作業を終えた。

 県の試算は10アール当たり200キロの収量だが、実際に取れた量は「半分程度」。それでも2月の大雪で主産地の群馬県産の出荷が滞った影響で、見栄えの良い春音に一時、通常の3倍程度に当たる100グラム1200円の高値が付くなど、生産者としてまずは納得のいく評価が得られた。来シーズンに向けて遮光トンネル内に育苗処理したトレーを敷く弥一郎さんは「コメ作りに加え、冬はばんけ(フキノトウ)、ウルイでやっていく」と自信を深める。

■高い目標額掲げ

 今後の産地化に向けた課題は明確だ。「収量アップ」。結城室長は現場の声を踏まえ、そう強調する。そのために必要な栽培技術の確立が求められる。春音の収穫量は全体で数トン程度。県は16年までに県産フキノトウの収穫量30トン、産出額1億円の高い目標を掲げる。産地力強化を見据えた確かな足音を響かせるための研究が続く。

(「やまがた農新時代」取材班)

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