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やまがた農新時代

第3部・スタート(1) 夫婦で新規参入

2014/5/19 08:17
代かきの合間、言葉を交わす反町貴浩さん、舞さん夫妻。研修を終え、昨年から「農家」になった=村山市樽石

 村山市西部の中山間部に位置する樽石地区。ここで暮らす反町貴浩さん(26)=村山市大久保出身=と妻の舞さん(25)=群馬県玉村町出身=は2013年、「農家」になった。築100年を超える古民家を借り、地元の農業研究会に入ってコメとスイカを栽培している。5月中旬、田植えの準備をしながら、舞さんは「お天道さまと会話をしながら、仕事するような感じ、自然と共存している感じがいいんです。ゆったりとした時間が流れる日々が気に入っている」と目を細めた。

 舞さんは群馬県の農業高校を卒業し、東京農業大短期大学部で醸造を学んだ。日本酒のとりこになり、山形を含め全国の蔵を巡った。「日本酒の原料になるコメを作ったら、おいしいお酒が飲めるかも」。農業への関心が芽生えた。

 舞さんは就職先に村山市の農業法人「山形ガールズ農場」を選ぶ。10年から2年間働くうちに「自分で農業をやった方が楽しいんじゃないかな」との思いが強くなっていった。同じころ、自営の仕事をしていた交際相手の貴浩さんも「何か他のことに挑戦したい」と考えていた。貴浩さんは村山農業高の環境科学科で学び、自然の中で体を動かす仕事に興味があった。「一緒に農業をしようか」。2人の思いが重なった。

 県内の農家が減っている。主な仕事が農業の「基幹的農業従事者」は10年までの5年間では5600人以上減り、5万2015人となった。高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増加―。課題が山積する中、本県の農業を支える存在として新規就農者に期待が集まっている。「やまがた農新時代」第3部は、県内で生業(なりわい)として「農」を選んだ若者、その卵として農業大学校や高校で学ぶ若者が今、農について何を思い、感じているのかに迫る。

築100年以上の古民家を借り、農家を始めた反町貴浩さん、舞さん夫妻。家の裏の畑で野菜も育てる=村山市樽石

国給付金「ありがたい」

 県内の新規就農者は2010年度から4年連続で200人を超えた。13年度は251人で、県によると1985(昭和60)年以降で最多だ。新規就農した反町貴浩さん(26)舞さん(25)夫妻=村山市樽石=は11年に「農家」になる準備を始めた。非農家出身で新規参入組の2人はまず農地を探した。民間生涯学習施設・樽石大学の松田清男学長と出会い、「つや姫」などを栽培する農家松田勇さん(72)=同=を紹介してもらった。樽石でコメを作って生計を立てたい―。熱心に語る2人の姿に勇さんは指導役を引き受け、土地も貸すことを約束してくれた。

■夢だった酒米

 12年度、勇さんの下でコメとスイカ作りを一から学んだ。入籍し13年に研修を終えてそろって農家に。勇さんらから借りた水田90アールでコメを栽培、うち20アールでは舞さんの夢だった酒米「出羽燦々(さんさん)」を手掛け、県外の酒蔵に売ることもできた。スイカも作っている。今年はコメの作付面積が40アール増え1・3ヘクタールになる。「多くの人との出会い、縁で今がある」。順調に農業を始められたことに感謝する。

 認定就農者として、国の青年就農給付金(経営開始型)を受け取っている。受給額は2人で年225万円。「就農してみないと分からない出費もある。今は給付金で暮らしているようなもの。ありがたい制度」と貴浩さんは語る。

■高品質めざし

 2人に当面の目標を尋ねてみた。舞さんは「品質の高い酒米をもっとたくさん作りたい。収入は、後から付いてくると思う」。それを聞いた貴浩さんは「給付金がもらえるのは5年間。なくなっても生活できるお金は稼げるようにならなきゃ」とすかさず付け加え、うなずき合った。

 勇さんは「楽しみながら、好きだからという理由で、本当に農業を続けられるのだろうかと少し心配している」。同時に、樽石を選んだ2人を見守り、育てていきたいと考えている。「農業に夢と希望を持っている若者の手助けをしたいんだ。これから激変する農業を乗り越えていけるのは、若い人たちだから」

(「やまがた農新時代」取材班)

青年就農給付金 就農意欲の喚起と定着を目的に2012年度に始まった国の制度。就農前の研修期間(2年以内)に給付される「準備型」と、経営が不安定な就農直後(5年以内)の所得を確保する「経営開始型」がある。対象はともに45歳未満で、給付額は年間150万円。研修終了後1年以内に就農しなかった場合などは全額返還しなければならない。45歳以上の研修者には県が年間150万円(2年以内)を給付する独自事業を展開している。

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