やまがた農新時代

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やまがた農新時代

第3部・スタート(2) 6年目の花卉農家

2014/5/20 10:35
「農地が見つけやすく、借りやすくなる仕組みづくり」に期待する寺嶋毅吏さん。夢は山形からヒット商品を生み出すことだ=山辺町根際

 農家になるには、耕作する農地を確保しなければならない。新規就農者、特に農家出身ではない新規参入者にとっては最初にぶつかる高いハードルだ。「本当に大変だったんですよ…」。4月下旬、就農6年目の花卉(かき)生産者寺嶋毅吏(たかし)さん(39)=山辺町要害=は石灰をまき終わった畑を見渡し、Uターンした7年前を振り返った。

■情報求め奔走

 都内の大学を卒業し、東京で10年近く花店や花の仲卸などの仕事に就いた。Uターンし故郷で草花を栽培することも視野に転職を検討していた際、山形で就農を呼び掛ける都内のセミナーに足を運んだ。農地はすぐに見つかると聞き、2007年に帰郷してみると現実は違った。

 山辺町などの農業委員会に足を運び、農地の借り入れを相談したものの色よい返事はない。山形市の園芸会社で研修を重ねながら、農業委員の力を借りて、ようやく山辺町内に農地を確保できたのは08年秋。「探している間は、不安な毎日だった」

 農地の売買や貸借は農地法によって、一定の要件を満たし、農業委員会の許可を受ける必要がある。要件は▽下限面積が原則50アール以上(市町村により異なる)▽原則年間150日以上農作業できる―など。新規就農者は賃借を選ぶケースが多いが、農地を見つけるのは簡単ではない。借りられる農地は、住宅の不動産情報のようには公開されておらず、農家は代々受け継がれてきた財産の農地を、見ず知らずの人間に貸すことを敬遠する傾向にある。

■支援に温度差

 新規就農相談の窓口となる「やまがた農業支援センター」(山形市)の高村和宏・新規就農支援課長は「農家側には、貸してもしっかり続けてくれるのかという不安があるのだろう。親元就農と比べ新規参入者にはハンディがある」と話す。新規参入者は、研修先の農家や知り合いになった農家、農業委員のつてを頼って探すことになる。

 新規就農者の受け入れや独立までの支援態勢は「市町村によって温度差がある」(県農業経営・担い手支援室)のが現状。県は今後、新規就農者をサポートする市町村単位での組織づくりを支援していくとしている。また、今年スタートした農地中間管理機構によって、農地の出し手と、新規就農者を含む借り手とのマッチングが進むことを期待している。

 寺嶋さんは自らの経験を踏まえ訴える。「新規就農しやすい環境づくりのために、借りたい人が、どこに借りられる農地があるのかひと目で分かるデータベースのような仕組みが必要ではないでしょうか」

 フラワーアレンジメント用にシソ科の多年草ラムズイヤーやフジバカマなどを首都圏、関西の市場に出荷している。ハウス設置といった初期投資を抑える目的もあるが、「山形の寒暖の差が植物の生育にとってすごくいい」という理由で露地栽培にこだわる。

 就農当初は赤字だった。3年を過ぎたころから経営は徐々に軌道に乗り始めた。農業を目指す若者たちに「こんなに面白い職業はない」と言いたい。「好きな種を選び、自分で育て、誰にも文句を言われない。そしてお客さんにも喜んでもらえる」。36アールだった農地は約70アールまで広がった。さらに拡大することも計画している。「人がやらない『オンリーミー』の植物を出荷して、全国でブームにしたい」。就農時から変わらない夢を追い続ける。

(「やまがた農新時代」取材班)

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