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やまがた農新時代

第3部・スタート(6) 親元に就農、コメ作り

2014/5/24 10:18
「地域の担い手になりたい」と語る斎藤聖人さん(右)。父善一さん(左)から農業技術と知識を受け継ぐ=川西町上小松

 川西町上小松の斎藤聖人(きよと)さん(25)は朝、スーツに着替え、家を出た。金髪にシャツは紫色のストライプ、首元にはちょうネクタイ。向かうのは会社ではない。家の近くの田んぼだ。足元は革靴の代わりに長靴。田植えの開始予定日は2日後に迫っていた。「全部終わるかな」。トラクターに乗り込み、仕上げの代かきに取り掛かった。

■Uターン決意

 聖人さんは就農2年目の新人農家。斎藤家は300年以上続く農家だが、もともと農業を継ぐ気はなかった。仙台市の専門学校で建築デザインを学び卒業後、東京や関西の会社で働いた。始発で出勤し、終電で帰る毎日に「何のために働いているのか分からなくなった」。当時交際していた妻の美友生さん(26)=長井市出身=と相談し、Uターン就農を決意した。

 会社勤めをしながら農業を続けてきた父の善一さん(60)は、聖人さんや兄、弟に「農家は継がなくてもいい。好きなことをしろ」と言い続けてきた。米価は下がり、農業を取り巻く環境は厳しい。聖人さんが就農すると聞いた時は「うれしい気持ちと期待が半分、そして不安が半分だった」。

 スーツに金髪姿は田園風景でひときわ目立つ。農作業をしていると、水田の脇に車を止めて、眺めていく人もいる。ただ、目立つことが目的ではない。「自分をきっかけにして、若い人たちに農業は面白いと思ってもらいたい。何よりも農業に関心を持ってもらいたかった」と語る。

■ブログを開設

 その一環で、日々の農作業などを写真入りで紹介するブログも開設した。プロフィルに記した「これからの時代にしっかりと付いていくことのできる『新しくて強い農家』を目指して日々精進してまいります!」の言葉に覚悟がにじむ。

 斎藤家は約10ヘクタールの水田で「つや姫」や「はえぬき」「コシヒカリ」などを栽培している。13年は県立農業大学校(新庄市)に通いながら基礎を学んだ。家では農家現役の祖父栄助さん(83)と善一さんの指導を受ける。若手農家が研さんを積む「秋穂の花」川西町米ブランド研究会にも参加。「農業はやればやるほど難しい。経験を重ねないと分からないことが多い」と奥深さを実感している。

■ブランド化挑戦

 新規就農の中でも土地や農業機械など経営基盤がある親元就農を「新規参入と比べて、恵まれていると感じている」。一方で焦りもある。耕作面積が変わらず、聖人さん、美友生さん夫妻が世帯に加わったことで、斎藤家の家計は支出が増えた。「自分たちで考えて、農業経営の効率化や収入増に取り組んでいきたい」と話す。まずは先祖代々伝わる方法で栽培したコメのブランド化に挑戦する。古くから家に残る焼き印「カブ」にちなみ「家福来米(かぶらまい)」と名付けた。

 農業の現場に身を置き、農家の高齢化、後継者不足という現実をより深刻に受け止めるようになった。だからこそ、地域の農地を引き受けられる「担い手」になりたいと考えている。「そのためにはもっと地域の人たちと関わって信頼を得られるようになる必要がある」と表情を引き締める。「出身にかかわらず、多くの若い人たちに川西町に来てもらって、一緒に元気に農業がしたい」。太陽の下で稲穂をイメージした金色の髪が輝いた。

(「やまがた農新時代」取材班)

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