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やまがた農新時代

第4部・6次産業化(1) 農家の挑戦

2014/7/20 14:16
規格外の果実や自家製野菜を活用した6次産業化に取り組む北村陽子さん(右から3人目)ら「おによめ.com」のメンバー。「楽しみながらやることが一番」と北村さん=東根市神町営団南通り

 東根市で家族と果樹園を営む北村陽子さん(56)=神町営団南通り=は2013年1月、自宅敷地内に長年の夢だった農産加工所「おによめ.com(ドットコム)」をオープンさせた。サクランボやラ・フランス、リンゴを贈答用に出荷している果樹園では毎年、大量の規格外品が出る。さらに義父が畑で食べきれないほどの野菜を栽培するようになった。「もったいない」が、北村さんを加工・販売に突き動かした。

 加工所のメンバーは、北村さんのほか、舟越佳代子さん、高橋清子さん、三橋弘子さん、増川ミネヨさん、大場忍さんの50、60代の5人。果樹園を手伝う長年の友人で、それぞれが漬物、やイタリア家庭料理など得意分野を持っている。

 週に1回集まり、漬物やジャム、万能たれを作る。しなべキュウリの漬物は「むかしおとめ」、野菜を細かく刻んだ漬物は「これさえあれば妻いらず」、味が自慢の万能たれは「うまいじゃん」とネーミングもユニーク。インターネットでも販売しているが、果樹園を訪れる観光客や贈答用の顧客を中心にじわじわと売り上げを伸ばしている。「ちょっと見た目が悪いだけで贈答品になれなかった果物に光を当てられる」「買ってもらえるということは、自分たちが作った物の価値が認められること。それが喜び」―。6人はやりがいを語る。

 東根市の農産加工所「おによめ.com(ドットコム)」の2013年の販売実績は130万円。計画の90万円をクリアした。「味には絶対の自信がある」と代表の北村陽子さんは胸を張る。自家製リンゴやサクランボ入りの万能たれ(350グラム入り580円)は800本売れた。周囲からは、他の商品も含め容器を瓶に変えたりして価格設定を上げるよう提案されるが、その気はない。売れなければ意味がない。食べてもらい地道にファンを増やしていきたいと考える。

■「甘くはない」

 個人農家で6次産業化を検討している人には「簡単にもうけられるほど甘くはない」とアドバイスする。初期投資は元母屋の改修や厨房(ちゅうぼう)設備購入で約300万円。県の制度「創意工夫プロジェクト」で70万円の助成を受けたが、残りは借り入れと自己資金で対応した。さらに、加工の下準備などに想像以上に時間が取られた。

「栽培、収穫から口に入るところまで直接関わりたい」と語る元イタリア料理シェフの生稲洋平さん=河北町田井

 昨年の給料は1人当たり年間10万円ほど。北村さんらは「目標はあるが、売り上げだけに束縛されたくはない。サークル活動のように楽しみながらだから続けられる」と口をそろえる。

■移住し農家に

 東京で約7年間、イタリア料理のシェフをしていた生稲洋平さん(35)=河北町谷地、横浜市出身=は07年に町に移住し、妻の実家の仲野農園「くだもの楽園」でサクランボやリンゴなどを栽培している。料理と向き合ううちに「食材、産地に近づきたいという気持ちが強くなった」と生稲さん。就農の決め手は、都会にはない山形の食べ物や自然の豊かさだった。

 12年からはイタリア野菜プロジェクトにも携わる。レストランを辞める際、周囲から「イタリア野菜を作って」と言われていた。運命的なものを感じ、今はバジルやルッコラなどを栽培している。

 農作物を栽培、収穫して口に入るところまでをプロデュースする―が、就農時からの理想。農園では以前から、収穫期にサクランボの木のオーナーらに畑の中で果物やバーベキューを味わってもらうイベントを開催していた。生稲さんは特注の石窯でバジルを使ったピザを振る舞う。果物の収穫期にはリンゴやモモのデザートピザも作る。「収穫したものを料理して、最短で提供できれば、どんな高級レストランよりぜいたくでしょう」と畑に目をやった。

■片手間は無理

 理想を実現する方法として、農家レストランの開業は常に頭の中にある。一方で、農業が片手間ではできないことも、レストランのシェフが研究を重ねた料理を提供をしていることも知っている。開店の準備資金も必要だ。「いつかはやりたい。でも中途半端にやることは農家、シェフに対して失礼だと思う。今は『6次産業化』という言葉が一人歩きしているが、簡単ではない」と語った。

 全国で「6次産業化」が叫ばれている。農林水産漁業者(1次産業)が加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)を手掛けることや、1次、2次、3次の連携を指し、県は「『食産業王国やまがた』の実現」に向け、推進を掲げる。6次産業化は本県の産業の活性化につながるのか―。「やまがた農新時代」(山形新聞、山形放送8大事業)第4部では、実践する農家や企業を取材し、可能性と課題を探る。

(「やまがた農新時代」取材班)

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