やまがた農新時代

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やまがた農新時代

第4部・6次産業化(6) JA山形農工連(酒田市)

2014/7/25 12:08
ふんだんに炭火焼きトビウオの天日干しを使ってだしを取る=酒田市砂越・JA山形農工連

 全農エーコープの指定工場として長年、しょうゆや県産のコメと大豆を原料に用いたみそを製造し、庄内地方を中心に県内の食卓を支えてきたJA山形農工連(酒田市)。生産者と食品加工業者の連携による「6次産業化」の先駆けともいえる組織は近年、庄内柿や庄内産おばこ梅の酢など、地域の農産物を使った商品開発にも力を入れている。

■トビウオだし

 炭火焼き後に天日干しした飛島産トビウオが原材料の「絶品とび魚だしめんつゆ 贅沢(ぜいたく)ストレート」もその一つ。味の評価は高く、標準小売価格は1本378円(270ミリリットル)と「低く抑えた」(農工連)ものの、販売本数は伸び悩んでいる。そこには意外な“落とし穴”があった。

 開発課長渡部洋史さん(37)に工場を案内してもらった。だしを取る作業の最中で、釜の中には日本海の海洋深層水が沸騰している。黄金色のトビウオが投入されると、湯気が立ち上り、周囲に甘い香りが広がった。

 トビウオを使った商品は約30年前からあった。4倍濃縮で一部の卸業者向けだった。お年寄りが薄める分量を間違えないようにと売り出した2倍濃縮が好評で「次はストレートを」という機運が高まった。しかし塩分が低い分、製造管理が難しく、話は進まなかった。

■大学とも連携

 2008年に県漁業協同組合(酒田市)と連携し、トビウオと海洋深層水を材料にした高級めんつゆの製造に乗り出すことになり、ストレートの開発は大きく動き出した。09年には国の農商工連携事業に認定され、東北公益文科大(同)がプロジェクトに加わった。

 大学側から「化学調味料不使用」の課題も提示された。試作は連日深夜10、11時まで及んだ。開発の責任者だった営業・製造部長の高橋基義さん(54)と渡部さんは「夜食用にそうめんを買ってきては味見の繰り返し。化学調味料を使う以上の味にするため、納得がいくまで追究した」と振り返る。

 トビウオはかつお節などと異なり「優しい」ため、求める風味を出すには相当な量が必要だった。当然材料費は通常のめんつゆと比べものにならないほど掛かる。それでも、多くの食卓に届けようと価格を抑えた。

■販売伸び悩む

 商品はインターネット通販のほか、主に庄内地方のエーコープや観光施設、産直施設などで販売している。初年度の10年度は1万3300本以上売れ、11、12年度は企業のギフト企画などにも採用されて2万3475本、3万9350本と順調に伸びた。しかし、13年度は1万7千本台にとどまった。

 なぜ思うように売れないのか―。農工連はその理由の一つを、価格設定と分析する。今でも卸業者からの問い合わせは少なくない。だが取り分を伝えると「話にならない」と電話を切られる。消費者のために低く抑えた価格設定で、業者に“うまみ”がなく、取り扱ってもらえないのだという。

 農工連は現状打破に向け、味も価格もワンランク上のプレミアム商品の開発を検討している。「大手が絶対にまねができない品質を実現することで、卸業者が扱いたい、消費者が買いたい商品になるはずだ」。高橋さんと渡部さんは続ける。「目標は年間販売10万本。『絶品とび魚だし―』を県内、全国の定番にしたい」

(「やまがた農新時代」取材班)

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