やまがた農新時代

第4部・6次産業化(7) アル・ケッチァーノ(鶴岡市)

2014年07月26日
「庄内の食材には不思議な力があり、僕に多くのことを教え、与えてくれた」と語る奥田政行さん=鶴岡市
「庄内の食材には不思議な力があり、僕に多くのことを教え、与えてくれた」と語る奥田政行さん=鶴岡市
 6次産業化といえば、1次産業に携わる生産者が、2次産業の加工、3次産業の流通・販売にも関わるパターンが一般的だ。一方で、鶴岡市のイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」のように、生産者と連携して所得の確保、庄内産食材のPR、在来作物の保存などの効果を生み出している例もある。「苦しい時に助けてもらった恩返し」。すべては、オーナーシェフ奥田政行さん(44)のこの思いから始まった。

 奥田さんは鶴岡市内の高校を卒業後、東京で修業を積み、1993年に帰郷。二つの店で料理長を務めた後、庄内の食材が持つ魅力を多くの人たちに知ってもらい、庄内を食の都にしたいと2000年に30歳で独立、アル・ケッチァーノを開業した。

 今では日本中から客が訪れる有名店として知られるが、オープン当初は100円ショップで購入した食器を使ったり、自ら採ってきた野草を料理したり。奥田さんは「実家のドライブインが倒産した時に背負った借金の返済に追われ、お金がなかった」と話す。

■出荷増が励み
 この状況を見かねた生産者たちは「二つの店で料理長を務めてきたシェフがレストランで失敗したら、庄内の料理人の夢がなくなってしまう」と食材を支援。奥田さんと生産者による二人三脚が始まった。

 奥田さんを助けた生産者の一人で、在来作物・藤沢カブを手掛ける後藤勝利さん(71)=鶴岡市藤沢=は「カブが欲しいと、見たことのない人が来たと思ったら、いきなり抜いて食べ始めた。まるで野ウサギのようだった」と、出会いの日を懐かしそうに語る。

 それから1週間後、奥田さんは「藤沢カブと山伏ポークの焼き畑仕立て」を創作。後藤さんは「藤沢カブは漬物が一般的。焼いて食べるのには驚いたが、アル・ケッチァーノへの出荷が増えるたびに、多くの人たちが食べてくれていると思え、うれしかった。それが励みになった」と話す。

■抱いた危機感
 しかし02年、県産農産物の信頼を揺るがす無登録農薬問題が発生。生産者が手塩にかけた農産物が捨てられ、自殺する人さえいた。奥田さんは「何とかしないと、山形は暗闇に追い込まれてしまうと危機感を抱いた」と、当時を振り返る。

 苦しい時に助けてもらった生産者を、今度は自分が助けなければいけない。「命懸けで庄内を食の都にしたい。僕に付き合ってほしい」と、生産者一人一人に頭を下げて回った。数年前までは見向きもされなかった奥田さんの夢に、生産者のみならず、行政、消費者、山形大農学部にも賛同の輪が広がった。

 その後は庄内産食材のPRのために県内外を奔走した。活躍ぶりが新聞、テレビ、雑誌などで頻繁に取り上げられるようになると、今度は取材に訪れた人を生産者の元に連れていき、食材の素晴らしさを説明するなど、広告塔としてフル回転。県産農産物は次第に元気を取り戻していった。

■恩返しの思い
 現在、奥田さんが食材を仕入れる生産者は、県内の約60軒に上る。羊肉、ハーブ、トマトなど最上級の食材を、10軒を超す県内外の直営店とプロデュース店で利用。生産者は安定的に収入を得ることができ、ひいてはそのことが後継者確保へとつながっている。

 「庄内の食材は、僕に多くのことを教え、与えてくれた。そんな食材を育むこの土地を守り続けたい。今やらなければいけないことはまだまだある」と話す奥田さん。その胸には今も変わらぬ、古里への熱い思いと生産者への恩返しの気持ちがある。
(「やまがた農新時代」取材班)
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