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やまがた農新時代

第4部・6次産業化(8) 農村体験の教育旅行(西川町戸沢村)

2014/7/27 18:27
春の農業体験ではヤマブドウの棚作りを行うなど、民宿ごとにさまざまな体験メニューを考えている=西川町大

 都会の子どもらが民宿に泊まり、自然豊かな農村の暮らしを体験する教育旅行、グリーンツーリズムは地域資源を生かす6次産業化の一つの形だ。受け入れが盛んな西川町大井沢、戸沢村角川の両地区では、毎年多くの子どもたちが山形の魅力を満喫している。

■変わるもてなし

 寒河江川の清流と朝日連峰の山々に抱かれた西川町大井沢地区。教育旅行の受け入れは、1996年度からスタートした月岡地区に続き、99年度から始めた。宮城や福島、千葉、静岡から計1万人以上の中学生が訪れている。主に1泊2日の日程で農作業、山菜やキノコ採り、そば打ちなど各民宿の得意分野を生かしたメニューを体験できる。

 60年代には30軒ほどあった民宿も今は9軒。年々少なくなっている。経営者の高齢化などで生徒の受け入れが難しくなったり、指導者がいなくなったり、スタート時とは体験できる講座も変わってきた。町商工観光課では「10年たっても同じことができるとは限らない。変わらないもてなしをいつまで続けることができるだろうか」と悩みを口にする。

■「町ぐるみ」大事

井沢農家民宿「ほたる」には、宿泊した中学生らが残した寄せ書きが壁一面に残る=戸沢村角川

 課題を抱えながら、新しい方向性も見えてきた。地区民の1割を占める町外からの移住者の手で、大井沢ならではの工芸が誕生。子どもたちは「自然と匠(たくみ)の伝承館」を会場に、こけしの絵付けや月山メノウを使ったアクセサリー作りなどを体験できるようになった。また今年から、出羽三山参拝の玄関口として栄えた岩根沢地区も受け入れを始めた。大井沢で大自然を満喫、岩根沢では宿坊に泊まり、異なる魅力に触れることができる。

 大井沢ふるさと民宿旅館組合長の遠藤知良さん(65)は「各宿の“企業努力”も必要だが、民宿だけで子どもたちを受け入れるのは限界がある。農家の人たちの力を借りて、町全体で協力していかないと」と話す。「都会の子どもたちは山菜を見たこともなく、お土産として渡すと、とても喜んでくれる。大人になって大井沢のことを思い出して、また足を運んでもらえたらうれしい」

■売り込み方模索

 戸沢村角川地区は仙台圏からの教育旅行を積極的に受け入れてきた。緑豊かな里山に囲まれ、都会にはない自然や景観が売りだ。農山村体験学習は1泊2日と2泊3日の2パターンが基本。季節ごとに多彩なメニューがそろい、その中から希望の体験プログラムを組み合わせることができる。

 地区には旅館業の営業許可を得た農家民宿が5軒あり、数年前までは民泊やホームステイを合わせると、1日最大140人程度を受け入れることができた。だが、農家民宿「ほたる」の田中満さん(57)は「今は120人程度が精いっぱい」と打ち明ける。

 地区の高齢化が進み、ホームステイ受け入れを断念する世帯が出てきた。さらに、新たに農家民宿を始めるには旅館業法や消防法、食品衛生法のハードルが高く、二の足を踏む人もいるという。田中さんは「補助金などもっと行政の支援や協力があれば、受け入れ人数を拡大できるのではないか」と訴える。

 角川地区は田植え、山菜採り、雪遊びと、四季ごとに違ったコンテンツがあり、教育旅行のほか、個人客やリピーターも増えつつある。「これまでは情報発信力が弱く、“営業活動”も足りなかった。広くPRできれば宿泊客も増えるのではないか」と田中さん。いかに魅力と独自性を売り込むのか。課題ははっきりしている。

(「やまがた農新時代」取材班)

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