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やまがた農新時代

第4部・6次産業化(10) 地域農業経営戦略アドバイザー

2014/7/29 14:53
「加工だけでなく、さまざまな手法で消費者に感動を与える努力が重要」と語る高木響正さん(左)=川西町

 「パッケージを変えた方がいいかも」「これも試食してもらおうか」―。川西町で毎月1回開かれる朝市「こまつ市」。出店者に声を掛けて回る地域農業経営戦略アドバイザーの高木響正さん(55)=群馬県玉村町=の姿があった。漬物から餅、米沢牛の肉巻きおにぎり、野菜、「つや姫」までが並び、早朝から大勢の人が詰め掛ける。町の6次産業化を支援する高木さんは「加工すれば良いという考えは間違い。大事なのは農作物の付加価値を高める『六感産業化』だ」と話す。

■「戦術の一つ」

 本県を含む全国各地で、農業経営戦略を助言してきた。繰り返し強調するのは「戦略」「作戦」「戦術」を分けて考えることだ。例えば、トマト農家が「地域の農家のファンを増やし、全量直販体制を築いて所得を向上させる」という戦略を立てたとする。作戦は空きテナントを利用したカフェ運営やアンテナショップ的フードビジネスの展開、農家レストラン開業などが考えられる。作戦の中に「トマトを使ったカレーの提供」といった戦術が生まれる。「6次産業化は戦術の一つなのに、戦略や目的と混同している人が多い」と指摘する。

 県は成長戦略に「『食産業王国やまがた』の実現」を掲げ、達成の手法として6次産業化の推進を打ち出している。高木さんは「まず『王国の実現』の定義があいまい。戦略はもっと具体的でなければ、作戦の立てようがない」と注文を付ける。

 6次産業化の中でも農家による農産物、加工品の直販には賛同する。一方で1次、2次、3次産業の連携には「それぞれの利益が相反する。これまで農家がもうかった例がない」と懐疑的だ。

 農家の戦略を、農作物の付加価値を高め、消費者と直接つながって所得を上げる―とした場合、「加工にこだわる必要はない」と断言する。加工品は開発しても100個のうち1個が残るか残らないかの厳しい世界。農家が6次産業化で作った総菜やスイーツの相手は、プロの料理人やパティシエが研究を重ねて送り出した料理や商品だ。

■「五感」を刺激

 では、農作物の付加価値を高めるにはどうしたらいいのか。生産方法にこだわり食味値が高い商品を、少量だけ作るブランド化も一つの手だ。「かわいく面白いネーミング、おしゃれなパッケージでもいい。朝市などで農家が直接、消費者に商品の魅力を伝えても、農家自身の魅力を伝えても良い」。高木さんは消費者の「五感」を刺激して、「六感」の心をつかむ努力を続ける重要性を訴える。

■手段を尽くす

 あらゆる手段を尽くした上での加工を勧める。加工所の整備などに多額の初期投資が必要になるため「まずは委託で始め、マーケットを取れるかを見る。自分で加工するのは固定客が付いてからでも遅くない」とアドバイスする。

 個人でのブランド化、加工品開発には限界があると考える高木さんは「地域ぐるみで戦略を立て、複数の農家が農作物や新商品を売り出すタイミングをずらす。その地域の名前が常に話題に上るようにすれば、地域の活性化につながる」と語った。

(「やまがた農新時代」取材班)=第4部おわり

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