やまがた農新時代

>>山形新聞トップ >>やまがた農新時代 >>第5部・飼料用米の可能性(1) 新たなマッチング

やまがた農新時代

第5部・飼料用米の可能性(1) 新たなマッチング

2014/9/21 17:19
つぶしたもみ米を黒毛和牛に試験的に与える。発育は順調だ=天童市・和農産

 天童市山口にある和(なごみ)農産の牛舎。場長の布川儀春さん(39)が台車から黄土色の餌をすくい取り、通路にまくと、牛たちが黒光りする体を揺らし近づいてきた。柵から頭を出し、勢いよく食(は)む。

 与えていたのはもみ米を熱してつぶした「圧ぺんもみ米」。同社は天童市と東根市で山形牛になる黒毛和牛850頭、乳牛40頭を肥育している。1年ほど前から、和牛のうち100頭に与える配合飼料の一部を圧ぺんもみ米に代える試験を続けている。矢野仁社長(52)は「多い牛で20~25%を代替している。発育は順調だ」と話す。

 稲作農家と畜産農家のマッチング(結び付き)を支援する県の仲介で、2014年度から鶴岡市の米集荷販売業庄内こめ工房から、もみ米約150トンの提供を受ける契約を結んだ。さらに天童市の肥育、稲作農家と連携しマッチング協議会を組織。生もみを発酵させた「もみ米サイレージ」に加工し、国産の大麦や大豆などと混ぜて100%国産の餌作りにも取り組む。

 配合飼料の原料となる輸入トウモロコシの国際価格が高水準で推移し、円安も進んでいる。矢野社長は「配合飼料は値上がりを続け、子牛の仕入れ価格も高止まりしている。割安な飼料用米の割合を増やしていくことを検討しており、増産と安定供給を期待している」と語る。

 主食用米の消費が年々落ち込んでいる。価格も全国的な在庫過剰傾向を受け低迷し、JA全農山形は農家に前払いする2014年産「はえぬき」の概算金を過去最低の8500円(1等米60キロ)に設定した。消費減少は毎年8万トンのペースで進むとみられ、これまで同様に主食用米を作り続ければ、さらなるコメ余りと価格下落が予想される。こうした状況を受け国は飼料用米への転作を促進、高騰する輸入配合飼料の代替品として増産を求める畜産農家も少なくない。本県は飼料用米の作付面積が全国3位(13年)で、生産量の約8割を県内で消費している地域マッチングの「先進地」でもある。「やまがた農新時代」(山形新聞、山形放送8大事業)第5部は、飼料用米の生産、利用の現状と課題を報告する。

和牛肥育農家に飼料用米のもみ米を提供する庄内こめ工房。斎藤一志社長は「飼料用米は稲作農家にとって一筋の光だ」と話す=鶴岡市

 黒毛和牛を肥育する和農産(天童市)で月に使用する配合飼料は200トンに上る。配合飼料価格は、原料のトウモロコシ国際価格の動向に左右される。農畜産業振興機構によると、肥育用の価格は全国平均で2010年9月には1トン5万7千円だったが14年7月には6万9千円まで上昇。月200トンなら単純計算で240万円のコスト増になっている。

■大きい安心感

 東日本大震災による原発事故後、風評被害で低迷していた山形牛の枝肉価格はようやく震災前まで回復したが、飼料代の上昇をカバーできていない。鶴岡市の庄内こめ工房から宮城県の飼料会社を経て提供される圧ぺんもみ米は1キロ当たり30円台後半で、配合飼料の70円に比べほぼ半分だ。天童市内の地域需給マッチングで農家から購入する生もみは1キロ5円。矢野仁社長は「コスト面のメリットだけではなく、牛の餌を目の届く所で管理してもらえ、顔の分かる人から購入できる安心感も大きい」と強調する。

 「稲作農家にとって飼料用米は一筋の光だ」。庄内こめ工房の斎藤一志社長(57)は真剣な表情で「べこあおば」を植えた田を見詰めた。鶴岡市を中心に120人の農家と契約し、このうち今年は25人が45ヘクタールで飼料用米を栽培している。

■復田を兼ねて

 本格的に取り組み始めたのは10年。政府は環太平洋連携協定(TPP)交渉参加へ動きだしていた。「世界との自由競争の時代に突入するのに、国内で需給調整する生産調整はいずれなくなる」と読んだ。飼料用でも田を維持しておけば、翌年は主食用米を植えられる。主食用と共通の機械が使え、作業もほぼ同時期にできる。目立ち始めた耕作放棄地の復田を兼ね13ヘクタールからスタート。親会社のいずみ農産で肥育する豚などに与えた。

 今年から3年間で主食用米は大暴落するとみる。14年産「はえぬき」の概算金は8500円(60キロ)。10アールで10俵(600キロ)収穫した場合8万5千円で、減反補助金(7500円)を合わせると9万2500円。一方飼料用米は、同量取れて1キロ15円とすれば販売代金が9千円だが、地域の基準収量であれば転作補助金8万円を受け取れる。さらに専用品種の使用で1万2千円(鶴岡市は9500円)、わらを畜産農家に提供することで1万3千円が加算される。補助金だけで10万5千円になり、収量が基準を150キロ上回れば最大13万円になる。

■生き残るため

 「米価は稲作経営の収支ラインの限界を超えてしまっている。低迷が続けば農家を辞める人もたくさん出てくる」と斎藤社長。「本気で『人の餌より、家畜のの餌』だと思っている。生き残るために全量、飼料米を植えるという人が出てきてもおかしくない」と考えている。その上で長期安定的な補助金制度確約、多収性専用品種の開発・種子供給、低コスト栽培技術の確立など、生産拡大に向けた課題を指摘する。

◇飼料用米 県内の作付面積は2013年産が1700ヘクタールで全国3位だった。トップは栃木県の1723ヘクタール。14年産の推定面積は2100ヘクタールで、「はえぬき」などの主食用品種と、「ふくひびき」「べこごのみ」など多収性専用品種がほぼ半分ずつと推定される。栄養価はトウモロコシとほぼ同等。国内の畜産農家は家畜の餌として、飼料用米を政府の備蓄米などと合わせて56万トン利用している。農水省は450万トン程度まで需要があるとみている。

◇地域需給マッチング 稲作農家は飼料用米を作っても売買契約を結ばなければ転作補助金を受け取れない。作付面積の拡大には畜産、稲作農家の需要と供給の結び付きが不可欠。県は地域需給マッチング協議会の設立を支援している。昨年度までの協議会数は23で、本年度に入り7組織が新設された。

(「やまがた農新時代」取材班)

[PR]
やまがた農新時代
[PR]