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やまがた農新時代

第5部・飼料用米の可能性(3) 町ぐるみのブランド化

2014/9/23 11:29
飼料用に作付けした水稲の出来を見る会田保兵衛さん=山辺町

 黄金色に交じって濃緑色の稲穂が風に揺れる山辺町大塚の水田。地元のコメ農家会田保兵衛さん(66)は「直播(じかま)きして発芽しなかった場所に後から苗を植えたから生育にばらつきがでるんだ」と笑う。水稲品種名は「ふくひびき」。「はえぬき」や「つや姫」といった主食用として育てる銘柄米ではなく、家畜の餌となる配合飼料用のコメだ。良食味を引き出すため管理を徹底する前者に比べ、後者はあくまで収量重視。会田さんは昨秋、10アール当たり700キロ超の飼料用米を収穫した。主食用米に比べ、実りは100キロ以上多い計算になる。

■「戦略」として

 会田さんは町内5、6カ所で計20ヘクタールほどの水田を手掛ける。主食用米を約15ヘクタール、残りを飼料用米、加工用米の作付けに回す。生産調整(減反)の必要性から、国が示す「戦略作物」として飼料、加工用米を選択した。「これまでコメを作ってきたんだから、コメを作るのが一番いい。新しい設備投資もいらない」

山辺産米を使った配合飼料で育つ「舞米豚」=山辺町・山形ピッグファーム松山農場

 単純明快だが、稲作農家が飼料用米を作付けするには、一つの壁がある。売り先を確保できるかどうかだ。高品質の農作物を育てる技術に自信はあっても、販売先にまでたどり着く手段、人脈を持つ農家はそう多くない。だが、会田さんはすぐに地元の養豚業者・山形ピッグファームの存在に思い至る。酒田市の平田牧場は既に飼料用米で豚を育て、業界をリードしていた。

 会田さんは山辺町の担当者とピッグファームに掛け合い、地元のよしみから了承を得た。町はほかに飼料会社など関係団体を巻き込んだ組織化を進め、2008年度から「山辺町飼料用米プロジェクト」がスタートした。

■配合率12%に

 ピッグファーム社長の阿部秀顕(ひであき)さん(43)=根際=は「地元消防団などで付き合いのある保兵衛ちゃんの頼みはそう簡単に断れない。試してみるというつもりで引き受けた」と当時を振り返る。08年度は会田さんら8農家が計4.7ヘクタールで作付けし、豚3千頭に供給。地元のブランド豚「舞米豚(まいまいとん)」を誕生させた。

 「コメを食べさせた豚は脂乗りがいい。市場の評判も高い」と阿部さん。11年度から飼料内に占めるコメの配合率を5%から12%に引き上げ、対象頭数を6千頭に拡大した。町内の作付面積は年々広がり、本年度は19.2ヘクタールで収量目標は130トン。生産農家は19戸を数える。

■地元に根付く

 舞米豚の増産について、阿部さんは「山辺のコメを食べた山辺育ちの豚が、地元で消費される意味は大きい」と強調。輸入トウモロコシを主原料にした飼料に比べ購入費はかさむが、地域に根付いた畜産業としてのやりがいを口にする。

 地域振興に欠かせない地場産業への支援。町は飼料用米の収量に応じた助成、さらに団地化に伴う補助金を独自に設定し、生産者を後押ししている。会田さんは「町外の農家から『うちも飼料用米を作りたい』って言われるんだ」と苦笑いを浮かべ、「主食用米の下落で、そうした声はますます強くなるだろうな」と続けた。

(「やまがた農新時代」取材班)

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