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第5部・飼料用米の可能性(5) 地域完結型流通(下)舟形

2014/9/25 08:12
「飼料用米を使うようになり、3割ほどコストダウンできた」と語るマガモ生産者の庄司太郎さん=舟形町

 フランス料理や郷土料理向けの高級食材として世界各地で人気があるマガモ。数あるカモ肉の中でもトップクラスの品質を誇り、市場でも他の鶏肉より高値で取引される。

 舟形町に、町内産の飼料用米を使うマガモ生産者がいる。山形第一農場代表の庄司太郎さん(46)=富田=だ。1989年から食用マガモの生産、販売を手掛ける。アイガモやフランスガモを含め、多い時で6千羽以上を飼育する。

 食用となるのは雄で、体重1キロを超す11~1月が出荷のピーク。農場は1羽3千円で出荷する。その時期を過ぎると寒さに備えて太る習性があり、出荷には適さなくなる。食用のほかに無農薬農法に取り組む稲作農家向けに、除草用の雛も取り扱う。

 餌は1日2回、計200~300キロを与える。マガモはもともと野生種で雑食。飼料用米を餌として重宝している。主食用米と同じ水分15~16%まで乾燥させ、生後2カ月ごろから、もみのまま配合飼料と混ぜて与える。

■飼育規模拡大

 国の転作補助金制度導入により飼料用米を生産する農家が増え、安く入手可能となったことがきっかけで2010年から使い始めた。1キロ60~65円の配合飼料に対し、飼料用米は1キロ10円。年間100~120トンの餌を消費する農場にとって、大きな差になる。庄司さんは「コストは3割ほど削減できた」と語る。

 飼料用米導入のメリットはコスト面だけにとどまらない。ふんの臭いが軽減され、同時に肉の臭みが消えて脂身が柔らかくなり、より高品質な肉を出荷できるようになった。餌代が削減できたことで飼育規模は年々拡大。出荷数が増え、売り上げも伸びた。庄司さんは「来年はもう少し飼育数を増やしたい」と意欲を燃やす。

■地元の安心感

 農場で使う飼料用米を生産しているのは近くの稲作農家約20戸。地元農家が生産した飼料用米を、地域から出さず地元の畜産農家が使う「地域完結型」の取り組みだ。庄司さんは「よその地域の人から買うより、顔見知りから買う方が安心感がある」と説明する。

 その稲作農家の一人・庄司市雄さん(60)=富田=は10年に飼料用米の生産を始めた。「米価が下がり続けており補助金は魅力だった」と話す。「はえぬき」「つや姫」といった主食用米も生産するが、今では全収穫量の1割を飼料用米が占める。

■先行き見えず

 国は飼料用米の生産を促すが、懸念材料はある。今年から収量や品質の検査が義務付けられ、手数料や検査場まで運ぶ手間が必要になった。運搬に使う車のガソリン代は自腹だ。加えて、生産調整(減反)も廃止されることが決まった。

 市雄さんは「減反廃止で主食用米が生産過剰になって米価が下がれば、補助金が手厚くなる飼料用米に転換する農家が増える」と予想。そうなれば「今度は飼料用米が生産過剰に陥るのではないか」と危惧する。コメを作っても売る先はあるのか。「来年は飼料用米を作るが、再来年は分からない」。先行きが見えない不安は大きくなっている。

(「やまがた農新時代」取材班)

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