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やまがた農新時代

第5部・飼料用米の可能性(6) 稲発酵粗飼料の利用

2014/9/26 11:38
県酪農業協同組合は稲作農家と連携し、発酵粗飼料(WCS)用の稲の作付面積拡大に取り組んでいる。専用の機械で円筒型の稲をラッピングする=9月3日、飯豊町

 9月上旬の飯豊町の水田に、コンバインのエンジン音が響いていた。葉は青々とし、実はまだ完熟していない時期だ。刈り取られた稲は円筒型に圧縮され転がっている。大人の腰の高さまである稲の筒(ロール)を別の機械がすくい上げ、白いフィルムで巻いていく。

■契約して栽培

 この稲は、県酪農業協同組合(山形市)が稲作農家と契約を結び栽培する発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ、WCS)用。WCSは栄養価が高い実と、繊維が多い茎、葉を一緒に収穫して密封し、発酵させた粗飼料で、同組合は置賜地方を中心とする稲作農家と連携して、WCS用稲の作付けを徐々に増やし、酪農家に提供している。

 刈り取りは稲の実が完熟する約1カ月前が適期。今年の作業は8月中旬から始まり、9月上旬まで続いた。刈り取りと運搬を請け負う農家の作業を見守っていた同組合生産振興課の竹田敏美課長(53)は「1カ月ほど貯蔵すると、稲WCSになる。品質を確保するには主食用米と同様に適期刈り取りがポイント」と説明する。

■輸入牧草高騰

 組合は輸入乾牧草の高騰を受け、飼料自給率の向上、循環型農業を目指して2009年から県内産稲WCS導入に本格的に取り組んでいる。農畜産業振興機構によると、04年9月に1トン約2万7千円だった輸入乾牧草は08年に一時4万円を超え、14年に入ってからも4万円前後で推移。酪農家の経営を圧迫している。

 09年当初、30ヘクタールほどだった契約面積は12年に50ヘクタール、13年には70ヘクタールと着実に広がり、14年は120ヘクタールまでになった。既存の粗飼料を稲WCSに置き換えた場合のコスト削減は「量にもよるが1割程度」(組合)とそれほど大きくないが、為替や海外の作柄に影響されずに価格、量の両面で安定供給を見通せるメリットは大きい。

 稲作農家側にも魅力がある。10アールから収穫されるWCSはおよそ8ロール。組合は1ロール(300キロ)を2900円で買い取り、運送費を加えて酪農家に3500円で販売する。稲作農家は販売分で2万3200円、酪農家から堆肥供給を受ける耕畜連携で1万3千円、転作補助金8万円を受け取れ、10アール当たりの収入は11万6200円の計算になる。

■1本でも多く

 「今年は主食用米で同じ収入を得るのは難しい」と話すのは、WCS用稲の生産者で、刈り取り作業などを請け負う農事組合法人「藤の木農場」(長井市)の理事を務める佐藤幹雄さん(70)=同市勧進代。ただ「飼料用だからといって、適当に栽培していては駄目だ。収入を増やそうと思ったら、ロール1本でも多く取ること。そのためにしっかり手を掛けなければならない」と強調する。今後、主食用米価格が下がれば、国はWCS用稲への転作補助金も引き下げるとみており「採算が合わなければ誰も作らなくなる」と稲作を継続できる制度の維持を求める。

 現在、組合に所属する酪農家は107戸。そのうち、県産WCSを利用しているのは、関連会社の飯豊ながめやま牧場も含め約4割にとどまる。稲WCSの周知不足に加え、300キロ入りの1ロールはいったん開封すると3日ほどで使い切らなければならず、20頭以上を飼育し、ロールを運ぶ設備が必要なことが導入が進まない理由という。既存の作業請負組織が対応できる面積も限界に近い。竹田課長は「新たな請負組織の設立を促すなどしながら、作付面積と利用の拡大を実現していく」と意欲を口にした。

(「やまがた農新時代」取材班)

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