やまがた農新時代

>>山形新聞トップ >>やまがた農新時代 >>第5部・飼料用米の可能性(8) 畜産試験場の取り組み

やまがた農新時代

第5部・飼料用米の可能性(8) 畜産試験場の取り組み

2014/9/28 10:57
加工処理が異なる飼料用米について説明する三上豊治研究主幹=新庄市・県農業総合研究センター畜産試験場

 「飼料用米を家畜に与えることで差別化を図りたい」。県内で実践する畜産農家はそう口をそろえる。差別化の対象は、従来同様の餌を食べて育つ家畜にほかならない。家畜の餌の主役は今も米国産やブラジル産などの輸入トウモロコシだ。

 国内で流通する配合・混合飼料の総量は2013年度実績で約2400万トン。このうち輸入トウモロコシが約1千万トンで43.6%と圧倒的なシェアを誇る。一方、飼料用米をはじめとするコメの割合はわずか2%にとどまる。

■餌米の優位性

 “コメ育ち”が広く生産現場で普及する可能性はあるのだろうか。県農業総合研究センター畜産試験場(新庄市)で飼養管理部長を務める三上豊治研究主幹(55)は「輸入トウモロコシの代替作物として飼料用米は十分使える」と言い切る。家畜の成長に必要な栄養価は同等で、何ら遜色ない。その上で「餌米のさらなる優位性をどう実証するか。インパクトのある研究結果を導くのはこれから」と強調する。

 同試験場で飼料用米に関する本格的な研究がスタートしたのは2007年ごろ。耕作されていない農地を有効活用し、飼料自給率を向上、安定供給するのが目的だが、輸入穀物の価格高騰も背景にあった。でんぷんを主成分としたコメは家畜の主要カロリー源になり得る存在。輸入に頼り切りの家畜飼料が国内自給中心になれば、生産現場から流通、販売など幅広い業態に変革をもたらす。それだけ大きな可能性を秘めた取り組みといえる。

■「給与と加工」

 研究の主なポイントは「給与」と「加工」の二つ。給与は家畜の発育を良くし、肉質を高めるような飼料用米の与え方を課題にする。例えば、肥育牛や乳牛に与える従来の配合飼料に対して、飼料用米はどの程度まで取って代われるか。三上研究主幹は「3割から4割まで代えても肉質、牛乳の高品質生産は可能」と説明。県がブランド化を図る「やまがた地鶏」に至っては5割まで代替できるとし、配合飼料の半分程度を占める輸入トウモロコシを一切使わなくても、同水準の発育、食味評価が得られるという。従来の餌を与えた場合に比べ、卵の黄身の色素が薄まり「赤に近いオレンジでなく、レモンの色に近くなる。栄養価は変わらない」。

■試行錯誤続く

 一方の加工は、飼料用米をいかに“おいしく”与えられるかが研究テーマ。消化を促すため細かく粉砕したり、発酵させたりと処理を施し試す。さらに蒸してから発酵処理を加え、与えやすいようペレット化するなど、家畜の種類、発育状況に応じた試行錯誤が続く。庄司則章主任専門研究員(43)は加工処理した効果を探るため、分析機器を操作してそれぞれの餌を与えた肥育牛の肉質などを調べる。「牛が食べたくなる味や香りを引き出す加工方法、他の飼料との最適な組み合わせなど、分析項目は多岐にわたる」と笑う。

 国産、県産飼料を与え、付加価値の高い畜産物の生産に道筋をつけたい―。研究者の目線は国内の産地間競争だけでなく、輸入畜産物との差別化も見据えている。(「やまがた農新時代」取材班)

[PR]
やまがた農新時代
[PR]