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第6部・環境保全型農業(1) 県内の現状

2014/11/17 08:39
若手生産者と言葉を交わす山形おきたま産直センター組合長の渡沢賢一さん。「安全で、自然の生き物と共生する農業の価値を伝えたい」と語る=南陽市

 南陽市の倉庫に、収穫されたばかりの新米の袋が高々と積み上がっていた。生産したのは「有機栽培」や「特別栽培」に取り組む山形おきたま産直センターの組合員たちだ。

 組合長の渡沢賢一さん(62)らは約40年前から減農薬に挑戦してきた。主流だった除草剤2回、殺菌・殺虫剤6、7回を散布する慣行栽培から脱却し、減農薬米を志向する仲間90人が集まり1985(昭和60)年、前身となる置賜地区産直協議会を設立。首都圏の生協の消費者の「体に良い物を作ってほしい」との声に応えて「やまがた土づくり省農薬米」を届けた。現在は約170人がコメを栽培し、全国展開のハンバーグチェーン店でも使われている。

 渡沢さんは「効率を追求する農業ではなく、自然にも人間にも優しい環境保全型、循環型の農業で生産した物を消費者に食べてもらいたい」と力を込める。

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「山形赤根ホウレンソウ」を有機栽培するおきたま興農舎の小林温さん(右)と妻の和香子さん=高畠町

 食の安全・安心とともに、無農薬・減農薬の農産物への関心は高まっている。県内の特別栽培の認定者は年々増加し、有機JAS認定された農家数は全国でもトップクラス。一方で有機農産物の多くは大消費地に流れ、生産地の県内で手に入れにくい現実がある。農家やレストラン、消費者を取材し、有機農業をはじめとする環境保全型農業の現状をリポートする。

 有機農業の推進と発展を目指す有機農業推進法が2006年に施行された。県は09年に、消費者に信頼される産地づくりを目指し有機農業推進計画を策定。化学肥料・農薬を慣行栽培より2、3割減らした生産に県内全域で取り組む全県エコエリア構想を掲げる。

 県内の特別栽培の認証農家は04年度の3512戸から13年度には8265戸まで増え、エコファーマーも13年度には累計で1万2800戸を超えた。県は16年度までの目標をそれぞれ9千戸、累計1万3千戸としている。有機JAS認定農家数(13年度)は東北1位、全国4位とはいえ、173戸にとどまる。販売農家数全体(10年約3万9千戸、農林業センサス)の0.44%だ。厳格なJAS認定を受けていない農家を含めても11年度で391戸。なぜ有機農業は広がらないのだろうか。

■雑草との闘い

 「有機農業は草との闘いだから」。山形おきたま産直センター組合長の渡沢賢一さんは語る。同センターの出荷割合も、除草剤を1回だけ使う特別栽培が8割、有機栽培は2割。約8ヘクタールで有機米を手掛ける渡沢さんでも「土づくりが途中の田んぼでは失敗して、収量を落とすことがある」。

 地域の畜産農家と連携して堆肥を入れ、多様な生物の働きで土の力を蓄える。技術の進歩で以前と比べれば有機米に取り組みやすい環境が整いつつある。渡沢さんは「『安くておいしい』を競争していてはきりがない。生物と共生する農業の価値を消費者に理解してもらいたい」と考える。同時に生産者側の努力の必要性も説く。「技術を磨いてコストを削減し、収量を上げ、価格を一般的なコメの3割増程度に抑えるのが目標だ」

■草や虫と対等

 1989年に農家11人で設立したおきたま興農舎(高畠町、小林亮社長)は、無農薬、特別栽培のコメや野菜を生産、出荷している。生産者は置賜全域に約120戸。品目はグリーンアスパラガスやオカヒジキ、カボチャ、エダマメ、レタスまで多岐にわたり、有機野菜や自然食品の宅配サービスを展開する首都圏の企業や生協が主な取引先だ。

 自身もコメ、エダマメを無農薬で作る業務1課長の小林温(ゆたか)さん(40)は農薬を「魔法みたいなもの」と表現する。

 薬をまけば草は生えず、虫も寄り付かない。小林さんは汗にまみれて草をむしり、水田では「アイガモに働いてもらう」。虫よけに木酢液を振り掛ける。「大変な作業だが、汗水を流しながら、同じ生き物として雑草や虫と対等に生存競争をしている」

■おいしいから

 会社近くの畑では伝統野菜の「山形赤根ホウレンソウ」が冷たさを増す秋風に耐え、土から顔を出していた。種苗店からは「病気が付きやすく無農薬では難しい」と言われたという。「だったら、わたしたちが無農薬でやってやろうと思って。おいしいホウレンソウだからね」。小林さんは作業の手を止めた妻の和香子さん(36)と顔を見合わせた。(「やまがた農新時代」取材班)

◆有機栽培(有機農業) 有機農業推進法は、化学肥料や農薬を使用せず遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本とし、環境への負荷をできる限り低減した農業と定義。オーガニック農法とも呼ばれる。「有機」「オーガニック」を表示する場合は、国に登録された機関から日本農林規格(JAS)法に定められた有機の生産基準を満たしているか審査を受け、認定される必要がある。

◆特別栽培 農林水産省のガイドラインに基づき、化学農薬と化学肥料の使用を慣行栽培の半分以下で栽培する農法。「特別栽培」を表示するために認証を受ける必要はない。

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