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やまがた農新時代

第6部・環境保全型農業(5) 上和田有機米生産組合(高畠)

2014/11/21 11:12
機械選別した新米をチェックする「上和田有機米生産組合」青年部のメンバー=高畠町

 11月中旬、高畠町馬頭にある上和田有機米生産組合事務所近くの作業小屋で、昨年組合に入った若い生産者たちが、収穫した新米の機械選別作業を行っていた。その姿を見ていた組合長の猪野誠さん(59)=馬頭=は「先輩たちと築いてきた高畠ならではの運動を、次の人たちにつなげていくことが使命だと思っている」と自らに言い聞かせるようにつぶやいた。

■空中散布発端

 有機農業の里として全国的に知られる同町。上和田有機米生産組合は、その活動の代表格で1986(昭和61)年の設立以降、コメ作りを核にしたさまざまな活動に取り組んできた。発端はヘリによる農薬空中散布が始まったころ、子どもたちの体調悪化が相次いだこと。当時、猪野さんは20代。「ショックだった。それ以上に子どもたちや地域の将来を考えた。命を守る農業、地域の環境を守る農業が自分たちの目標になった」と振り返る。

 組合員は町内の20~70代の生産者56人。全員がエコファーマーの認定を取得し、オリジナル有機肥料を使った土作りを基本に「コシヒカリ」や「つや姫」など自慢のコメを作り続けている。全国の食味コンクールで何度も日本一になるなど、そのうまさは常に高い評価を得てきている。

■人のつながり

 また、地元の小中学生や高校生への農業体験を受け入れたり、消費者団体や大学とのフィールドワークなどで参加者と一緒に田んぼの草取りを行うなど、食育や環境教育にも力を注いできた。その中で信頼関係が生まれ、人と人のつながりの輪が広がり、北海道から九州まで70を超える販路を築くことができた。

 だが、猪野さんは言う。「ここ数年は、多くの生産者と同じようにコメ作りは厳しい状況になっていることは変わりない」。東京電力福島第1原発事故の風評被害は今なお残り、環太平洋連携協定(TPP)交渉問題の不安は広がる。追い打ちを掛ける米価下落。「一般的なコメの価格は1967(昭和42)年の水準にまで戻ってしまっている。燃料費高騰などで生産コストは3、4倍になり、もうからない状況が続いている」と話す表情に苦悩がにじむ。

 それでも組合員のコメ作りへの熱意は変わらない。作ったコメの良さを理解し、買って食べてくれる人たちがいるからだ。それが組合の財産であり、作り手の意欲につながっている。地域との融和も大切な要素。有機栽培が根付いている地域性もあり、農協も施設利用の面など協力的で、組合として貯蔵施設などを持たなくても済む利点もある。

■若手9人加入

 さらに去年、後継者となる20~30代の若手9人が組合に加入し、青年部を組織した。父親が有機栽培に取り組む姿を見て加入した高橋隆浩さん(23)=上和田=と伊沢良郎さん(29)=安久津=は「同世代が多く気軽に話しやすい」「仲間の力を合わせ、いろんなことに挑戦したい」と目を輝かせ、遠藤優一さん(31)=南佐沢=は「自分たちの世代が頑張り、日本一になった先人たちを超えるコメを作りたい」と話す。

 「意欲ある若者は、これからの組合活動にとって何よりの財産。できる限り研修の場を提供し、成長を後押ししたい。私たち世代にとっても刺激になる」と猪野さん。薬膳ブームを見据え、食べて健康になる「医療」にもテーマを広げた挑戦として、今年から自慢の有機米を使った伝統食「深炒(い)り玄米」を商品化し販売を始めた。

(「やまがた農新時代」取材班)

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