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やまがた農新時代

第7部・植物工場(2) 県内の新規参入

2015/2/25 10:39
低カリウム、低硝酸のレタスなどを栽培している山形包徳の植物工場。障害者の就労も支援している=山形市清住町1丁目

 山形市の住宅街にも植物工場がある。ビル管理の山形包徳(同市、本部良宏社長)が運営する街なか野菜工場「フレッシュファクトリー」。全国で植物工場が増える中、一般的な野菜ではなく、腎臓疾患者ら食事が制限されている人や健康志向の消費者向けに低カリウムと低硝酸の高機能野菜を提供し、差別化を図っている。障害者を雇用し、就労と自立を支援しているのも大きな特徴だ。

■まなざし真剣

 清住町1丁目の工場では10人の男女が収穫や種まきに従事。指導員のサポートを受けながら、大きく育ったレタスが乗った板を水耕棚から運び、作業台で手際良く引き抜く。マスクと帽子の間からのぞく真剣なまなざしが印象的だ。

 かねて施設の清掃部門などで障害者の就労を後押ししてきた同社は2011年、事業拡大のため農業への参入の検討を始めた。当初は土地利用型の農業を想定し、農業委員会に農地の賃借を相談したが、提示された条件のハードルが高く断念した。また、法人として農業経営を成り立たせるためには、年間を通した継続的な収入が不可欠と判断。天候に左右される土地利用型の農業から通年安定出荷が可能な植物工場へと方針転換した。

■夏の高原再現

 13年1月に下条町2丁目のオフィスビル1階に設置した水耕栽培用プラント1基(栽培棚5段)で試験生産をスタート。14年1月からは清住町1丁目の空き倉庫(約250平方メートル)に新工場を開設し、プラント6基を導入、事業を本格化させた。

 新工場は室温を23度前後、湿度60%に設定。1日6時間蛍光灯を消し、夏の高原の環境を再現している。主に低カリウムのレタスを栽培し、1日平均300株以上を出荷している。カリウムは人体に必要な栄養素の一つで、健康な人が必要量以上を摂取した場合は尿として排せつされる。しかし糖尿病などで腎機能が低下した患者は、うまく排せつできず血液中に蓄積してしまい、不整脈や心停止を引き起こす場合がある。

■86%削減実現

 同社は土耕栽培と比べて、カリウムの86%削減に成功。当初から県内の医療機関などに売り込んできたが、価格面や低カリウム野菜への認知不足で取引先の開拓は難航した。低カリウムレタスの山形市内の青果物店での委託販売価格は1株(80~90グラム)税込み420円。専務の菅井薫さん(53)は「いい物を作れば山形でも売れると考えていたが甘かった」と振り返る。

 現在は多くを首都圏の青果市場や仙台市のスーパーマーケットに出荷している。都内の大手百貨店との取引も始まった。透析患者だけでなく、腎臓に不安を抱え、透析に移行したくない“保存期”の患者の食事療法用に多く購入されているという。通常の水耕栽培野菜も低硝酸の機能があり、県内では産婦人科クリニックのレストランで採用されているほか、首都圏を中心に健康に関心が高い主婦層の需要は大きい。

 初期投資額は両工場合わせて約5千万円。植物工場への参入を検討している企業や農業者に、菅井さんは「身の丈に合った初期投資で規模は徐々に拡大していく方が良い」「確かな性能の栽培設備導入と販売先の確保が重要」とアドバイスする。順調に行けば、来期には黒字化できる見通しで「工場の直売に足を運んでくれる住民も増えている。商品の魅力を伝え、県内でも取引先を増やす努力を続ける。栽培期間の短縮などで生産コスト削減につなげたい」と語った。

(「やまがた農新時代」取材班)

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