やまがた農新時代

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やまがた農新時代

第7部・植物工場(4) 高度施設園芸(上)

2015/2/27 10:44
太陽光を利用した水耕栽培で育ったサラダホウレンソウを収穫する「みちさき」のスタッフ=仙台市

 潮の香りが鼻をくすぐる。仙台市東部の太平洋沿岸。2011年3月11日の大津波でのみ込まれた農地の一角に、「みちさき」(菊地守社長)の水耕栽培用大型ハウスが立つ。太陽光を利用し、通年出荷が可能な葉物野菜をはじめトマト、イチゴを育てる。本格稼働から1年半が経過。黒字経営を目指す取り組みが続いている。

■収穫は15~17回

 同社の野菜工場は3棟あり、広さは計2.8ヘクタール。海外製の連棟型ハウスを導入し、作物ごと区分けして生産する。広い室内の隅々まで太陽光が降り注ぐ中、数人のスタッフが手作業でサラダホウレンソウの収穫に当たっていた。

 葉物類はほかに水菜、サンチュなど。緩やかな傾斜がある栽培棚の上に苗をセットし、傾斜を使って培養液を常時流し入れることで生育を促す。育成状況は日々管理され、外気の環境に合わせた最適な条件下で育つ。えぐみが少ないサラダホウレンソウの場合、畑地で1年間収穫できるのは通常3~4回だが、同社は15~17回の収穫を計画的に進めている。

 販売先は、菊地社長と以前から取引がある外食チェーン店や大手コンビニエンスストアにカット野菜を供給する関連会社。主な販売地域は東北全域から関東に及ぶ。

■水耕栽培に特化

 現在44歳の菊地社長は20年ほど前に家業を継ぎ就農。仙台市東部の農地約2ヘクタールでレタスを育てる傍ら、複数の地元農家に呼び掛け、一定量の農産物をまとめて小売業者に販売する取り組みを実践していた中で被災した。菊地社長は「米価の下落、(担い手の)高齢化など農業を取り巻く環境は厳しさを増すばかり。新しい事業スタイルを確立する必要性を感じてきた」と振り返る。

 震災後、菊地社長を含む地元農家に加え、国内大手の食品メーカー、IT企業などが参画し、仙台市東部の農業再生を目指す研究会が発足。仙台市など行政も関わり、土壌を必要としない水耕栽培に特化した大規模施設の建設計画が動きだした。その受け皿として同社が12年7月に設立。自己資金約3億円に国、県、市の補助を合わせた約13億円を投じ、施設整備にこぎ着けた。

■まねできる事例

 復興特区の指定事業者として税制上の優遇措置を受けるなど、支援体制はあるが経営安定化の道はそう容易ではない。1カ月最大で700万円かかる冬場の燃料費をはじめ大規模施設のランニングコストをいかに抑え、利益を生むかが大きな課題だ。隣県である本県での導入は可能だろうか。太陽光利用には日照時間の長さがものをいう面が多く、雪国での実用性は難しいとみる菊地社長は「365日収穫できる作物を見いだし、地域資源の有効活用策を結び付けることが大切ではないか」と話す。

 収量、品質ともに安定した野菜を市場に送り出す「工場」を拠点にしながら、働き手は小さな農地で工場とは別のこだわり農作物を育てる。そんな農業の将来像を思い描く菊地社長は「ほかの地域でもまねできる成功事例にしなくてはいけない」と力を込める。復興のつち音が響く地から、次世代につなぐ農業の道先を照らすための挑戦が続く。

(「やまがた農新時代」取材班)

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