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第7部・植物工場(6) 震災復興のシンボル

2015/3/1 11:25
東日本大震災からの復興のシンボルとして建設されたドーム型植物工場。円形水槽でサラダ菜が水耕栽培されている=福島県南相馬市・「南相馬ソーラー・アグリパーク」

 昇り始めた太陽に向かって車を走らせると、霜が降りた田畑の先に、二つの大きなドームが見えてきた。福島県南相馬市の「南相馬ソーラー・アグリパーク」の植物工場だ。東日本大震災の津波、原発事故の風評被害から農業の復興を目指すシンボルで、地元の農業生産法人が太陽光発電を利用しながら、水耕栽培でサラダ菜などを栽培している。

 2011年3月の東日本大震災で南相馬市は沿岸部を中心に約10%が浸水し、農地は全体の32%に及ぶ2722ヘクタールで被害を受けた。同市は同年、福島第1原発に近い小高区や原町区に農地を保有する約5千世帯に対しアンケートを実施。「離農を考えている」との回答が55%に上った。

■被災地に建設

 市は12年5月に「環境未来都市計画」を策定。1次産業の再生(EDEN計画)で、13年3月、市が買い上げた津波被災地2.4ヘクタールに太陽光発電所と植物工場を併設したソーラーアグリパークが完成した。

 太陽光発電所は「福島復興ソーラー」(半谷栄寿社長)が資本金と農水省の補助金計約2億円で建設。植物工場は市が復興交付金1億1500万円を活用し2棟を建て、地元の農業生産法人泉ニューワールドが栽培を担当している。また、社団法人が自然エネルギーの体験学習の場を提供している。

 1月下旬に植物工場を訪れると、社員の前田弘貴さん(24)が早朝から既に収穫作業を始めていた。ドームの直径は約27メートル、高さは約5メートル。面積は約570平方メートルで内部に直径20メートルの円形水槽が設置されている。

■収穫量は2倍

 水槽の中央に苗をセットすると、渦を巻くように外側に押し出され、作業員は外周部で収穫する仕組みだ。設備メーカーによると、通常のビニールハウスと比べて、面積当たりの収穫量は2倍という。

 サラダ菜とホワイトセロリを栽培しており、定植から収穫までの日数はそれぞれ約60日と約77日。1棟で常時約1万5千株を栽培し、毎日計千株程度を出荷する。全量を福島県郡山市に本社があるヨークベニマルが買い取っている。

 コンピューターによる栽培環境の自動管理は可能だが、太陽光が当たりすぎないようにドームにカバーをかけ、適切な温度設定、養液濃度に気を配る。「天候に左右されず、雨の日でもぬれずに仕事ができるのはいい」と前田さん。佐藤幸信社長(60)も「面積が小さくても一定の量をコンスタントに収穫できる」とメリットを挙げたが、すぐに「経営はそんなに簡単じゃない」と言葉を続けた。

■雪でつぶれる

 原因は電気代だ。ドームを膨らませるために常時、外気をファンで送り続けており、冬は暖房、夏は冷房が必要。1月下旬のサラダ菜のドーム内は日中19度、夜は17度を保つ。当初の電気代の想定は日中の太陽光発電所からの割安な供給分を含め平均月20万円だったが、昨年12月は約60万円に達した。平均すると想定の倍の負担だという。

 佐藤社長は「買い取り価格は一定で、法人として初期投資がかかっていない。それでも経営はぎりぎり。継続していけるか、慎重に見極めなければならない」と表情は険しい。さらに昨冬は50センチほどの“大雪”でドームがつぶれた。「福島より雪が多い山形でドーム型は難しいかもしれない」

 運営開始から丸2年となる復興のシンボルは大きな壁にぶつかっている。市農政課の担当者は「出荷は順調」とした上で「電気代などの課題は認識している」と語る。市は未来都市計画に基づき、別の場所で15年度、新たな植物工場建設に着手する。新工場はドーム型ではない大型園芸施設の予定という。

(「やまがた農新時代」取材班)

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