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第7部・植物工場(8) よりよいシステム模索

2015/3/3 10:18
温水を熱源にラジエーターでビニールハウス内を加温し、ドラゴンフルーツや温州ミカン、観葉植物を栽培している=鶴岡市茅原町のエコショップ・カーセンター庄内

 有機EL照明を植物工場に活用する研究が県内で始まっている。取り組むのは米沢市の山形大発ベンチャー「ナチュラルプロセスファクトリー」。社長で、有機EL研究の第一人者の城戸淳二さん(56)=同大大学院理工学研究科教授=は「10年以上前から植物工場に関心を持っていた」と、有機EL照明のパネルを手に取った。

■柔らかさ生かす

 植物工場の課題の一つが光源のコスト。蛍光灯では電気代が掛かり、発光ダイオード(LED)は蛍光灯と比べ初期投資が大きい。有機EL照明は電気代を蛍光灯の3分の1から4分の1に抑えられる。高い生産コストは「大規模工場への導入などで量産されれば下げられる」と説明する。

 有機EL照明の特徴は影ができない「面状光源」で、素材によっては柔らかく曲げられる点にある。そのため植物の種類や成長に合わせて囲むように光源を設置することも可能になる。また、有機ELは波長の調節が容易で、植物の生育に効果的な光が与えられるという。

 今年8月ごろから有機EL照明を使った植物の栽培試験を開始し、蛍光灯、LEDとの成長の差などを検証する。当面は一般的な野菜などで試験をするが、栽培品目は植物工場ビジネスの重要なポイント。城戸さんは「高付加価値の植物を安定栽培できれば、初期投資が大きくてもビジネスとして成り立つ」と見る。

■ノウハウ輸出も

 同社取締役で熱流体工学などが専門の鹿野一郎さん(47)=同大学院准教授=が、温度と湿度を含めた空調のコントロールシステムを構築する。有機EL照明、有機太陽電池と組み合わせ、高効率生産の植物工場モデルを開発を目指す。「山形のものづくりの力があれば、オールメードインヤマガタの植物工場ができる。将来的には他にはまねできない新たな植物工場システムを世界に輸出したい」。城戸さんらの挑戦は続く。

城戸淳二山形大大学院教授らは、有機EL照明を活用した植物工場の研究を進めている=米沢市・山形大工学部

 鶴岡市では、使用済み自動車から確保したリサイクル資材を活用し、屋内で植物を栽培する実証実験が進められている。自動車のリサイクル率向上を図るとともに、植物栽培の工場化による地域振興につなげる狙い。農業、工業の両分野が手を組み、新たな道を切り開こうとしている。

 実験は、使用済み自動車の処理と再利用に取り組む県自動車販売店リサイクルセンター(山形市)が、関連団体のNPO法人県自動車公益センター(同)と企画。鶴岡市茅原町にあるエコショップ・カーセンター庄内の敷地内で進めており、山形大農学部(鶴岡市)がアドバイザーとして参画している。

■安価な農業機材

 車載バッテリーを太陽光発電の蓄電池として利用し、LEDヘッドライトを光源に、暗室で植物を育てる実験では、葉物野菜を中心に品質や収量など基礎的なデータ収集に努めている。タイヤを植栽鉢として活用したり、ウォッシャーポンプを改造した自動かん水装置でタンクにためた雨水を草花に注いだりする実験では、安価な農業機材として導入の可能性を模索している。

 現在は、温水を熱源にラジエーターでビニールハウス内を加温し、ドラゴンフルーツや温州ミカン、観葉植物を栽培。水を温める際にはエンジンオイルなどの廃油でボイラーを稼働させる徹底ぶりで、燃料費など冬季のコスト軽減に向けた実証実験を進めている。

 同公益センター農業企画開発スタッフの榎本庸幸さん(71)は「リサイクル資材をどう活用するか頭を悩ます日々だが、植物が育ったときの喜びは格別だよ」。同リサイクルセンター庄内事業所長の加藤正行さん(58)は「実験結果を精査し、実用の可能性が見いだせれば、労力と投資コストの軽減という面で農業に貢献できるはず。今後、生産者ともタイアップしながら実用化の道を探りたい」と意気込みを語った。

(「やまがた農新時代」取材班) 

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